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ーーその日の夜。

ネグリジェに着替え、ベッドにころんと横になった私は、昼間のことを思い返していた。


(……緑の国からの、招待状)


昼間の招待状に刻まれていた緑薔薇の装飾は、紛れもない緑の国の象徴。
あの招待状が、緑の国から送られたものであると裏付けるには十分過ぎる程の、()の国の証だ。


「……緑の国、かぁ」


緑の国は、白の国や赤の国と同じ王政国家だ。
緑の王族が行う粛々とした政治が有名で、国の雰囲気は至って厳か……らしい。

……あくまで噂を聞いただけで、本当のことは詳しくは知らないけれど。

ただ、先進国であることには間違いないだろう。
ここ、白の国も、緑の国からの輸入品には随分と助けられているらしい。
緑の国の物は便利だなぁ、とお兄様がぼやいているのを聞いたことがある。

そんな国から届いた、招待の文だ。
別に私個人に向けられたものではないけれど、やっぱり緊張してしまう。


(今でも緊張してるって……当日、どうなるんだろ)


はは、と零れたのは己への苦笑い。

ごろ、と寝返りを打つと、天蓋が映っていた視界がぐるんと回り、窓の外に浮かぶ青白い月を映す。


初めての社交界に、不安がない、と言ったら嘘になる。
むしろ不安だらけだ。

勿論、ダンスや礼儀作法、テーブルマナーの教育は受けているけれど。

お父様やお母様、お兄様に迷惑をかけるようなことがあったらどうしよう。
恥をかかせるようなことがあったらどうしよう。

そんな心配ばかりが胸の中で渦を巻いて、延々と蠢き続ける。


……でも、それ以上に。

家族やさかたと同じ場所に立てるという喜びの方が大きいのも、確かに存在する事実。

やっと、家族の隣を歩ける。
やっと、さかたに置いてけぼりにされずに済む。
ーーやっと、国民の為に動ける。


そっと枕に顔を填め、瞼を閉じた。


私がお父様の部屋を出た時、既にさかたは赤の国へ帰った後だった。
メイドに聞けば、赤の女王と約束した時間が迫っていたらしい。
お兄様もそれに伴って仕事を始めてしまっていて、私は今回の招待状のことを誰にも話せていない。

私が社交界に出ると知ったら、彼らはどんな反応をするのだろうか。


「喜んで、くれるのかな」


さかたは、まるで自分のことのように喜んでくれそうな気がする。
お兄様には……やっぱり、心配されるのだろうか。

その様子を思い浮かべれば、滲み出る眠気と共に、くすりと小さな笑みが漏れた。

3.氷結の緑薔薇→←*



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over the rain - 新作おめでとうございます!文才がメッチャあって、さらに設定もメッチャ上手で、最高です!応援してます! (2019年12月26日 8時) (レス) id: a4bab14be1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年12月25日 16時

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