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あれからふらふらと村の中を歩き回り、中心部に帰ってきた俺達は、同じくふらふらと歩き回っていたとある男と出会った。
「あれ、うらたさん、坂田。奇遇やな」
「まーしぃ! 元気ー?」
坂田に「元気元気」と返すこの男は、まーしぃこと志麻。
俺たちと同じくこの村に住む平民の男で、坂田と同じく昔からの幼馴染だ。
日を浴びてきらきらと輝く紫紺の瞳に、俺は純粋な疑問をぶつける。
「何してんだ?」
「んー、暇やなぁって。茶屋でも行こうかと思ってたとこやねん」
「茶屋!まーしぃ、俺お団子食べたい!」
「自分で買え」
べし、と坂田の頭に手のひらを落とすまーしぃを呆れ笑いで見ながら、俺は呟いた。
「みんな暇なんだな」
「まぁな、この村なんもないし」
少しの間の後、まーしぃは「良い意味でも、悪い意味でも」と付け足す。
辺りを見回せば、あちらこちらで小さい子が走り回っている。
それを見て、ちら、と微かに蘇った「あの記憶」。
友人と駆け抜けた、幼い頃の村の姿。
それを振り払うように、俺はまーしぃの肩をぽんぽんと叩いた。
「ということで、団子奢ってくれまーしぃ」
「は!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ俺たちを見て、村の人達はくすくすと可笑しそうに笑う。
いつもの光景、いつもの毎日。
ーーそんな「いつも」に、小さくひびが入った。
「……っ、おった!!」
遠くから駆けてくる、ひとつの人影。
それは、俺たちの近くで止まり。
息も絶え絶え、俺たちを見つめた。
乱れた鮮やかな金髪。
困惑に揺れた、琥珀の瞳。
「どうしたんだよ、センラ……そんなに焦って」
俺がそう問い掛けたのは、2人と同じく幼馴染のセンラ。
センラは、息をつまらせながら俺たちに告げた。
「っ、聞いとるよね、王都に屋敷が出来たって話」
「うん。ちょうどさっきうらさんと話してたで」
まーしぃもこくこくと縦に首を振る。
それを見て、センラは頬を伝った汗を拭いながら話を続けた。
「見たって……隣家のおばあさんの親戚が、見たらしいんです」
余程混乱しているようで。
センラにしては珍しい、要領を得ない話し方。
「おい、センラ……少し落ち着けって……」
「落ち着いてられませんよ!」
遮るように放たれたその言葉に、俺はただならぬものを感じて。
センラの次の一言を、静かに待った。
「連れていかれてるんです、『あの子』が……! 捕らわれてるんですーー
ーーAが!!」
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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
狐 - 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時