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拾壱/大切な人ならば ページ40

「す、すみませんでした……」


村への道を歩みながら。

かあっ、と火照る頬と、まだ腫れぼったい瞳。

思いっ切り大号泣した記憶は確かにここにある。
もういっその事消えてしまいたい、恥ずかしい。

ぼそぼそと謝っても、四人は楽しそうに笑うばかりで。

はぁ、と小さくため息を吐くーーと。

ざわ、と、小さなどよめきが正面から聞こえた。

目の前でうらたくんが立ち止まり、それに習って私たちも立ち止まる。


うらたくんの背から覗き込んだ先には、騒がしさを孕んだ人集り。
何事だ何事だ、と、物珍しいものを見るかのような瞳がしっかりとこちらに向いている。

少し居心地が悪くて、私はそろりと後ろに後退った。


「とうーー、……村長は?」


うらたくんの一声に、またざわめきだす人の群れ。

くるくると辺りを見回し、恐らく村長を探す人。
そんなことより、と、人波を掻き分けて視線をこちらに向ける人。
大して興味なさげに、その場を離れようとする人。

王都には到底及ばない小さな小さな集まりは、まるで生きているかのように不規則な動きを繰り返していた。


「ここだ」


まさに、鶴の一声。

あんなにも騒がしかったこの場を、一瞬で水面(みなも)と化してしまった。

たった三文字で場を沈めたその声は、人混みの外れから。
勢いよく注目がそちらに流れ、勿論それは私も例外ではなく、視界から人混みが外れる。


「……あ」


ーーそこにあったのは、どこか見覚えのある深緑の瞳。
威厳と風格を備えたその立ち姿に、私は吸い付けられる。
正しく村の(おさ)、村長。

集まる視線と注目など意に介さず、村長さんはこちらに歩み寄った。


「……本当に、お前という奴は」


目の前、言葉の矛先は、どこか私を庇うように立つうらたくん。
滲み出るのは、怒りか、呆れか、果たして安堵か。
あまりにも複雑なその声色に、私は背筋を冷やした。


「悪い、とは思ってる。……けど、俺の……いや、俺らの決意は変わらない、から」


うらたくんの唇から、零された言葉。
少しずつ、嵌め絵のように結びつくそれらに私は、一言一句逃すものかと意識を傾けた。


「迷惑もかける、というか、もうかけてると思う。……でも、俺はこいつを見捨てることなんかできないし、したくない」


ーーだから、と息を吸ったうらたくんの声は、震えていて、そして。


「頼む、父さん。Aを少しの間だけ、ここに置かせてくれ」


村長さんを、彼は「父」と呼び、頭を下げた。

*→←*



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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
- 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時

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