＊ ページ23
今はこれ以上負担をかけさせたくない、と、私の身体に気を遣って一度外へ出て行ったみんな。
一人になった家の中で、私はこっそりと布団から抜け出して窓の外を見つめていた。
まだ少し身体が重い感じはするけれど、別に立てないほどではない。
薄い
釣りをしている人。
小川の向こうの段々畑で畑仕事をしている人。
道端で世間話をしている人。
活気もあって、どこか栄えている。
ここはまだ王都に近い村なのだろうか。
頭をよぎった「王都」の単語に、じわりと胸に不安が差し込む。
(抜け出して、良かったのかな)
執務を任されていない身でも、たとえ国民に姿を見せていなかったとしても、私はこの国の姫だ。
どんなに異質な扱いをされたとしても、この国の王は私の父だ。
勝手に王都から抜け出すような真似をして良いわけがない。
やっぱり私は王都に戻らないといけない。
……けれど、あのお父様の元に帰る勇気なんて、私には到底ーー
「A？ ため息なんか吐いてどしたー？」
「わっ！？」
背後から急に声がかけられて、私は驚きの声を上げ振り返った。
煙で痛めたのか、大きな声を出すと喉がちりっと痛む。
背後にあったのは、赤毛と赤眼。
ーー坂田くんだ。
どうやら、自分でも気付かないうちにため息を吐いていたらしい。
心配そうに私の表情を伺う坂田くんに小さく微笑む。
「もう、びっくりした…… なんでもないよ、ちょっと考え事してただけ」
「ふーん……？」
少し考えるような素振りを見せた坂田くんだけど、私の今の状態に気付いたのか、はっとしたように身体を跳ねさせた。
「って、A、なんで立ってるん！ ちゃんと休まなあかんやん！」
「えぇ、大丈夫だよ。もう立てるし……」
「いいから！」と私の後ろにに回って背中を押す坂田くんに苦笑いしつつ、私は布団へと戻る……というよりも、押し戻される。
「明日の朝にはこの村出るから、今はしっかり休んでや？」
「……え、そうなの？」
坂田くんがぽろっと零した言葉に反応すると、坂田くんは「あれ？ 聞いてへん？」と首を傾げた。
「うらさんが言うてたで、早く村に帰らないと追っ手が来るって」
「あ……」
追っ手。
その言葉に、ついさっきの葛藤が蘇る。
ぐちゃぐちゃと胸中をかき混ぜられる感覚に、私はどこか遠くを見つめながら考えた。
やっぱり、私は……
(逃げるべきでは、ないのかな)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 598人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちょこ - 更新が止まってます！戻ってきてください！続き楽しみに待ってます！ (2020年7月11日 23時) (
レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
狐 - 続きがきになる・・・更新頑張ってください！ (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい！更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！ (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星奈 ふゆ | 作成日時：2019年7月21日 16時
