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そんなことを考えながらじっと彼の顔を観察していればこそばゆそうに視線を逸らして、どこか居心地が悪そうなくぐもった声で「んだよ」と声をこぼす。
「千切さん、今の方が素敵ですよ」
「……そうか?じゃあお前も」
千切さんの手がこちらへと伸びてくる。
その手が顔の方に近づいてきて思わず反射で目を閉じれば、右頬に触れてむに、と頬をつままれた。そのまま軽く横に引っ張られて少し上へとあげる。
「な、なんれすか」
「Aも笑ってた方がいいぜ、せっかく可愛いんだから」
千切さんはそう言いながらもう片方の頬をつまんで「ほれほれぃ」と楽しそうに横に伸ばした。
「一体何人の女性を落としてきたんれすか…」
「こんなこと誰彼構わずやるわけねーっての」
「はぁ……?」
「まっ、お前が気にする事はなんもねぇよ」
納得しきれず顔を顰めると千切さんは呆れたように笑って手を離す。
「千切ー!飯行くぞ飯ー!!」
並んでコートを後にする。横を歩く千切さんの顔を見上げると、どこかスッキリとした、晴れやかな表情を浮かべていた。私はそれにひと安心する。
千切さんは私の言葉もあってと言ってくれていたが、私がいなくても千切さんはもう一度走っていたことだと思う。それでも、もう一度世界一を夢見るきっかけのひとつになれたのなら、それ以上に嬉しいことは無い。
感謝をしたいのはこっちの方だ。
「千切さん、ありがとうございます」
「ん?どした急に」
「ちょっと感謝したくなって」
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作者名:shiori | 作成日時:2024年1月20日 19時