drown069 ページ23
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「せっかくだからAっちとお話したいなーって。いつも忙しそうだし」
「潔もそこ座りなよ!」と私の向かいの席を指さした。
そう言われた潔さんはあからさまに戸惑った表情を浮かべる。
「さすがに食べづらいだろ…!向坂さんにも迷惑だって!!」
「え〜!!ね、Aっちいいでしょ?」
きゅるんと大きな瞳がこちらを覗き込んだ。
最近わかってしまった。
どうやら向坂Aはこの目に弱いらしい。濡れた子犬のような瞳と、まだ立っているせいで蜂楽さんがこちらを見上げる形になってしまったための、そのあざとい上目遣い。
「全然、大丈夫ですよ」
その言葉に隣でわっ、となったのが見えた。
別にさっきみたいなことされずとも頷いていたんだろうなと思いつつ、改めて椅子を引いて蜂楽さんの隣に座った。
「……なんか、ごめんね?」
「いえ。私の方こそ何も面白い話ないですけど……」
向かいに座る潔さんにそう話しながら、いただきます、と手を合わせた。
しんなりしたキャベツと人参を麺と一緒に箸で挟んで口に運んだ。焼きそばとか久々に食べたな、などと考えていればふと脳裏をカップ焼きそばをもそもそと食べる絵心さんが過ぎった。
現役の反動とはいえちゃんとしたもの食べてるのかな、あの人。
水を飲んで口の中のソースをリセットする。
「そういやAっちは俺らより年下?」
「同い年ですよ、同級生。話したことなかったですっけ」
「うっそ!!」
「……ごめん、俺勝手に年下だと思ってた」
「お気になさらず、慣れてるので」
「あ、慣れてるんだ」
口の端に付いたソースを親指で拭いながらそう言った。
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作者名:shiori | 作成日時:2024年1月20日 19時