何があっても…家族だから～第二章上～リメイク版 (ページ33)

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＊65＊　過去編9＿ページ33

「お前、こんなところで傘もささずに何やってるんだ。」

　黒い髪に赤い瞳。右目の下に大きな刺青。特徴的な見た目の男は、どうやら追手ではなさそうだ。訝し気に近づいてきた男は、少女が怪我をしていることを見て取ると慌てたように駆けてきて、顔を見て目を見開いた。

「お前、まさか雪野Aか…？」

「何故、それを…っ？！」

　その瞬間、うなじに強い衝撃を感じて少女は意識を手放した。

「…すまない。どうか、許さないでくれ。」

――――

「あの、お客様、どうかなさいましたか？」

　乗務員のお姉さんの心配そうな声にハッとして意識を引き戻す。どうやら先ほどオーダーしたものが運ばれてきたようだ。けれど、何故心配されているのか分からなかった。

「…えっと…何かありました？」

「いえ、泣いておられたので…。」

　言われて目元に手をやる。確かに濡れていた。…全然気が付かなかったな。ちょっと入り込みすぎたようだ。いまだに心配そうなお姉さんに大丈夫ですと伝えて、お茶に口を付けた。美味しい。落ち着く味だった。
　…あの後は、大変だったな。目が覚めて最初に見たものは、冷たい鎖と牢の扉、傷ついた子供たちの生気の抜けた瞳だった。それからの日々はまさに地獄だった。訳も分からず体をいじられて、人体実験の連続で…。結局実験も失敗したから、本当によく生きてあそこから出られたと思う。あそこは、毎日当たり前のように子供が死んでいく場所だったから。僕たちを救ってくれたのは、”彼”だった。同じ境遇にあって、それでも自分の生を諦めなかった強い人。

「…会いたいなぁ…骸。」

　元気だろうか。時折彼のことを思い出す。懐かしさで胸が熱くなって、その度に会いたい衝動に駆られた。骸とは途中で別れたけれど、彼には犬と千種が付いて行ったはず。彼らにも会いたかった。

「あぁでも、そういえばみんなヴィンデチェに捕まってるんだっけか。」

　全く馬鹿な幼馴染たちだ。ことを起こすなら、僕にも声をかけてくれればよかったのに。また、勝手に人をおいて行って。けれどそれも彼らの優しさだと分かるから、僕は何も言えないんだ。
　その時、機内アナウンスが鳴った。どうやらもうすぐ目的地に到着するらしい。

「少し楽しみだな。日本。」

　僕の始まりの場所。
　降下し始めた飛行機の中で、僕はこれからの生活に思いを馳せた。