何があっても…家族だから～第二章上～リメイク版 (ページ29)

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＊61＊　過去編5＿ページ29

「…すぐ戻る。」

「うん…？」

　その時、部屋にノックの音が響き彼の側近が入ってきた。どうやら時間のようだ。

「…行ってくる。」

「うん。いってらっしゃい！気を付けて。」

　少年を見送った彼女は、結局彼の心配の理由を聞けなかったことに少しだけ心が揺らいだ。主に心配されるようなことは何もないはずだ。メイド業もこれが初めてではないし、みんな優しくしてくれる。
　その時、部屋に遠慮がちなノックが響いて、髪の長い女性が姿を現した。

「あ、オルカ！」

　女性の名はオルカと言った。年は23歳。少女がメイド業を始めた日に教育係として付き添い、それ以降も何かと気にかけてくれている。少女の一番の友人で、姉の様な人でもあった。そんなオルカが心配そうな顔で言った。

「A、今日一日何するか聞いてる？」

「え？いつも通りメイドでしょ。違うの？」

「その、実はさっきボルドファミリーのボスがお見えになってね、今日は一日Aと過ごされるって…。ザンザス様には話を通してあるらしいんだけど、どうする？ザンザス様が貴方にそのことを言わなかったってことは、Aの好きにしていいってことだと思うわ。だから、Aが辛いなら無理する必要はないと思う。」

　『ボルドファミリー』。その名を聞くだけで、スッと血液が下降していくのを感じた。それは、少女がここに来る前にいたファミリーだった。そこのボスと言えば、前の主だったあの男だ。正直もう二度と顔を見たくないと思っていた。しかし、確かにオルカの言うことも一理あるが、今の自分は曲がりなりにもザンザスの秘書だ。主の顔に泥を塗るわけにはいかない。

「僕は大丈夫だよオルカ。今、僕はザンザスの秘書だ。主の迷惑になるようなことは出来ないからね。頑張ってみる。」

「そう…。わかったわ。」

　まだ心配そうに眉根を寄せる彼女を安心させるように笑って、あの男がいるという応接室に向かった。廊下ですれ違う使用人のみんなからも心配そうな視線を感じる。できるだけ時間を稼ぎたくて、無駄なあがきとわかってはいたが、なるべく遠回りをしてゆっくり歩いた。
　扉の前で深呼吸をして、主からもらったコートのフードをかぶる。マフィアのアジトとは思えない品のある扉が、鉄でできた重くてとてつもなく大きなものに見えた。それでも少女は意を決して扉を押し開けた。