第1叩 - 06 ページ7
「声もかけずに退室して、驚かせてしまったようですね」
薬研に促されて入った一室には、さっきの温和な審神者が座っていた。
この人の子と1対1でいると目をそらしたくなる。不動は、障子の向こうの4人の影を見遣ってちょっと恨んだ。不動に「つかえる」とすり寄る女も、ここについて来なかった。
正面に座ると、審神者の目が細まった。
「ご存知のとおり、『歴史修正主義者』による過去の改変を阻止するため『審神者』なる私たちは貴方方『刀剣男士』を戦場に送っています。
過去へと遡ることは酷ですが、どうかご助力願います」
審神者の腰から折られた体躯は、一瞬頭を下げられたことを忘れるほど綺麗で、おのずと不動の頭も下がりそうになってまた目をそらした。
審神者というのはよくわからない。こんな風に刀剣に頭を下げるやつらなのか。
新入りにいちいちこんなことをして、なんと無駄なことか。
「ダメ刀掴まされて、あんたも大変だなぁ……ひっく」
「いえいえ、申し上げた通り貴方を待っていたんです、私も、刀剣も。
ですから、貴方にとってここが心地よい場所になることを願ってます」
そんなことに、なるもんか。
すでに審神者のそばが温かいことに気づきながらも、不動は甘酒をあおって、鼻を鳴らした。
一段微笑みを深くした審神者は柏手を打って立ち上がり、障子に手をかけた。
そして思い出したようにひとつ、不動に質問した。
「よし、辛気くさい挨拶は終わりにしましょう。 この後も薬研が案内しますから、また飯時にお目に……あぁ、そうだ。
三間半は、貴方に挨拶できましたか」
「…された」
「貴方には、さぞ三間半が不気味にうつっていることでしょうね」
「……ぶきみ?」
「突然あんな風に懐かれて、驚いたでしょう。
気長にみてやってほしいのですが、私もあんなにはしゃぐと思わなくて」
「……いっこ、聞いても良いかぁ?」
おや、と審神者は驚きを隠せなかった。この刀剣が自発的に質問してくるのは想定外だった。
「ええ、いくつでもどうぞ」
「あいつ、あんたにとっちゃ“不気味”なのか?」
再度、審神者は息をのんで返答が遅れた。
「……決して不気味なんかじゃありません。私にとって“も”、彼女は大切な刀剣の一人です」
「……そうかよ」
・
・
障子を閉めてから、審神者は自室で一人胸を撫で下ろした。
「よぅし、心配なさそうだなぁ」
……残念ながら、あと数分で撤回することになるのだが。
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そらちゃんです!!(プロフ) - うわああああああすききききききききいいいいいいいいいいいいい (2020年8月21日 13時) (レス) id: 5d277503a8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カルティ | 作成日時:2017年12月20日 23時