三間半之槍【刀剣乱舞】 (ページ36)

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第伍降 - 短刀の彼らと得手の槍ページ36

誰人が、一笑に付した。

誰かに与えた瞬間から、寸分違わぬ品ではなくなる。
異なる持主が名前が傷が想いがついたそれらを一括りにできようか。
その値打ちを一人の人間が決めることなど、できやしない。

・

｢何やえろう集まってますなあ｣

短刀の子達が厩舎の陰で固まってはしゃいでますやん。
帰ってきたと思たら手拭いひっつかんでとんぼ返りしてった蛍丸と、それを追った国俊の様子見に来たが、何事か。
しゃがみこみ小っさい子達と焦点を合わせると、馬場で誰か相乗りしてはる。

｢おーおー、三間半さんと不動くんやん｣
｢国行。部屋で寝転がってんじゃなかったのか｣
｢自分が来たの気づいてへんかったん？…傷つくわぁ｣
｢悪い、あっち見とれててそれどころじゃなかった！｣

｢愛染、ボクたちも乗せてもらお！｣
｢おう！行く行く！蛍は？｣
｢…今日はもう、馬はいいや｣

皆、2人乗りにはしゃいでたんやな。
微笑ましくも他の短刀とともに浮き足立って馬場に近づいていった国俊の背を、蛍丸と見送った。

｢珍しいなあ、蛍丸。乗るのは好きやんか｣
｢……懐ってそんな良いものかな｣

視線を固定したまま呟いた蛍丸に、何故一人ここに残ったのか察した。

馬上で後ろの三間半さんにぴったり背をつけた不動くんは、凪いだ表情を浮かべている。

なるほど、短刀の子達は相乗りにはしゃいでたんと違う。
不動くんの場所自体を、羨んどったんや。

｢んー、自分は懐入れてもろうたことあらしまへんからなあ…｣
｢俺はいっぱいある。でも、あんなにはしゃげない｣

膨らみはじめた蛍丸の頬をつついて宥める。
えらく落ち着くという短刀特有の懐の感覚は、蛍丸にも、自分にも、三間半さんにもわかり得ない。だから今も、彼女はたぶん無意識に懐を明け渡している。

対して、わざわざ覗き見にやってくる程喜色を示す皆に、疎外感を覚えたんと違うんかな。

ぷく、ともう一回り頬が膨らんだ頃、手綱を引きながら不動くんだけにずっと微笑んでいた彼女が、自分と蛍丸に手を振って破顔した。

つついていた頬が、途端に萎んでぷしゅりと音を立てる。

｢…でも、俺も、ぎゅってされると嬉しいのはわかる｣
｢…いいやん、自分もしたるよ？｣
｢三間半にしてもらう｣
｢あっはっは。ほな、自分もいっぺん三間半さんに懐入れてもらいましょか｣
｢えー、怒られるって｣

本音を言えば懐より膝貸してほしいなあと思いながら、何にも知らない彼女に手を振り返した。