三間半之槍【刀剣乱舞】 (ページ26)

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第参降 - 審神者と遠征の槍ページ26

「大量生産品」は代えがきく。
　誰人が異議を唱えた、だからこそ、のこりにくいんじゃないか、現存が珍しいんじゃないか。
　誰人が異論を唱えた、いいかえれば、特別大事にされてきたってことじゃないか。

そんな愛器に、想いが宿らないはずがない。

・

「そろそろ出迎えか…」

審神者業務を手伝う長谷部が、私の呟きにつられて時計を見上げた。

部隊の「見送り」と「出迎え」は、就任初期に習慣にしたルールだ。
編成、時代、装備と諸々の最終確認目的が強いこの習慣は、間違いを恐れる私の臆病な性格に起因する。

だが、この臆病な慎重が功を奏して、戦績は良好。
その証拠に「成績優秀」を条件の１つとして下賜された槍がいるので、驕りではないだろう。

運も霊力も神力も豊かではないけれど。

「不動が初遠征、後藤が初部隊長の編成でしたね」

「皆、張り切っていたので心配です。特にあの子は疲れやすいですし」

「…あれは、まだ主を“主”とお呼びしないそうですね」

あの子。あれ。
三間半之槍のことだ。

「申し訳ありません。改めるように俺から…」

「いいんです。あの子は貴方たちに仕えているのでしょう?」

「えぇ、まぁ。…しかし、」

長谷部に命じられれば、彼女は間違いなく呼称を改める。
律儀な子なのだ。三間半は。

歴史に明るくもない私からしても、三間半は面白い武器だった。
その一方で彼女は、集団戦法のため量産された三間半之槍のどの一本なのか、また持ち主も全く不明。

そこに「審神者さま」と呼ぶ意図が隠れていたら、呼称を強いるのは不快だろう。

ならば、呼び方に不満はない。
だが、関心がないわけじゃない。

「心配無用です。相談相手として気に入っていますから」

長谷部たちを思慮する彼女は、審神者の目線に少し似ているのだ。

「実は、今日の編成も三間半と考えたんですよ」

・

大成功を収めた遠征部隊を出迎えに行くと、まず後藤が満面の笑みで叫んだ。

「不動と獅子王さんと仲良くなったぜ！大将！」

「後藤くん、開口一番それは…」
「このヘアスタイル可愛いよね?」
「後藤、不動、後で俺の部屋来いよー」
「へいへい、鵺だろ…ひっく」

「…貴様ら、報告が先だろうが！」

「長谷部さま、大成功です!」
「それは既に主が把握済みだ……!」

出発と様変わりした和気藹々の部隊。「大成功」以上の大成功だ。

叱責を飛ばす長谷部の横顔は仄かに誇らしげで、思わず噴き出してしまった。