スメールのにわかモブ (ページ7)

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シャンプーの香りだろうか、それとも彼のまとっている香水だろうか、ふわりと良い香りが触れた。ああそういえばおぶってもらった時にもこの香りがしたなと思い出してしまえば、かっと顔に熱が集まる。

A「あ…えと…ごめんなさい」

カーヴェ「どうして謝るんだい？僕は嬉しかったのだけれど」

普段テーブル越しに見る彼の顔が今は近すぎる。それはそれは由々しき事態だろう。どれだけ目を逸らしても視界の端には常に彼の顔が見切れている。もういっその事首を180度回転してやろうかとぐわんと向こうの方を向くと、彼はふふっと笑った。

カーヴェ「少しは顔色も良くなったようで良かった、それじゃあ僕は帰るね」

A「…え？今、きっと深夜ですよね？危ないですよ、男の人だって」

そう言ってから後悔をした。彼は仮にも神の目の所有者なのだ、それにゲームの性能もアタッカーよりだったはず、ならば怪しい人の1人や2人躱して帰れる。定かではないが。

カーヴェ「…うん、それは…えっと…一晩泊めてくれるって、ことかな？」

そう捉えられて仕方ない。心配の気持ちは本当であれど、その先を考えていない私の失言だ。

A「………そ、そうです！そうですとも！最近は何かと物騒ですもんね！こんな狭い家で良ければ是非！あっ、でも来客用なんて何も置いて…ないんでっ、このベッド使って下さい！今なら生暖かいですよぉ！あ！なんなら一緒に寝ます？！なぁんて！アハハ……ハハッ……………………………」

オタクにはコミュ障が付き物だが、そのコミュ障には稀に「勢いに乗ってあることないこと弾丸のように喋り出す」という奇行がみられ、今がまさにその状態である。この状態のコミュ障は頭が真っ白になっており、ただただ場を白けさせないよう内容も理解せず言葉を発している。これは本人にもどうしようもなく、言葉が尽きるか相手が中断させてくれるかの二択の地獄しか余地は無い。

A(こ、殺してくれ………)

小心者であるがゆえ、常日頃些細な恥にも一生の傷かの如く後悔を巡らせる日々だが、近年の恥をまとめあげても足りないくらいには今この一瞬に後悔をしている。一生のお願いだから聞かなかったことにして何も言わずに立ち去って下さい。

カーヴェ「……」

カーヴェさんの考えるような、探るような瞳が私を射抜く。針が刺さったようにズキズキと心臓が痛んで仕方ない。どうして、何も言ってくれないの。