スメールのにわかモブ (ページ5)

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彼は必ず初対面のように振る舞う。そして日によって違えど近日中にあった愚痴をこれでもかとこぼす。そして寝るなり帰るなりしてその日は解散となる。別日にこれの繰り返し。以前、覚えていないことに賭けて勇気を振り絞りお会いしたことありませんか？と聞いてみたところ、彼は定番のナンパ術だねとケラケラ笑っていた。こちらは一世一代の大博打だったというのになんてことだとショックのあまり赤くなって俯いていたら横から顔を覗き込まれてしまった。あの時は驚いて飛び退いてしまってこれまた盛大に笑われてしまったし、動揺のあまりお酒を服にこぼして自分より酔っているはずの彼に拭いてもらったりした。あの日の出来事は今でも私の失態リストの上位に君臨している

うん、だからこそ彼には｢A｣の認識がないものだと思っていた。しかし昨日の言葉によりそれが矛盾してしまったのだ。

毎度の振る舞いが嘘だったのか。それとも誰かと勘違いしていたのか。嘘だったとして、なぜ嘘をつく必要があったのか。そんなことを考えているうちに昼休憩も午後の業務も終わりを向かえ、規則正しく定時にて退勤を果たした。

A｢今日は寄らない方がいいか…｣

日々の習慣とは恐ろしいもので、心ここにあらずで歩いていたら足が勝手に酒場へと身体を進ませていた。無意識に酒場へ向かってしまうだなんて、いつからこんなにもダメ人間になってしまったのだろうか。

自分の浅ましさにフッと鼻で笑い自宅へと続く道へ足を向けた。

カーヴェ｢今日は飲んでいかないのかい？｣

後ろ。それも割と近くで声がした。今何よりも聞きたくなかった声が。

A｢あ…えと…｣

私の他に人がいたのかもしれない。きっとその誰かに向けて言ったのだろう。そうであってくれ。そう思いゆっくりと伺うように振り向いた。彼の瞳は私の願いとは裏腹に真っ直ぐとこちらを見つめていた。

カーヴェ｢丁度僕も飲もうと思っていたんだ。良ければ一緒にどうだい？｣

A｢人…違い…じゃ、ないでしょうか……？｣

カーヴェ｢？貴方はAさんだろう？｣

バッチリ覚えられていたらしい。私の名も、

カーヴェ｢それに昨日の件の謝罪を。君にとんだ迷惑をかけてしまった。お詫びと言ってはなんだけど、今日は僕に奢らせてくれ｣

昨日の件についても。

ここで断れればオタクなんてやってない。シラフの私が、コミュ障の私が、愛でるように画面越しに見ていた美しい彼に、Noを言える訳が無かった。