一日だけ、恋をした。

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「俺、こんな洒落てるバーで呑むのなんてすげぇ久々」
「俺も」
「えー、藤ヶ谷は慣れてんだろー？」
「ふふ、別にそんな事無いよ。
たまに付き合いで行ったりはするけど普通にコンビニで買って宅飲みの方が楽だし」
「へぇ〜、なんか意外だな」
「お前俺にどんなイメージ抱いてんの」
「そりゃあー、キングですしー、薄暗い照明のカウンターでオーラバンバンに出してクールに呑んで、二つ離れた席に座る美女にカッコつけて奢ってやったり…」
「ちょっと、途中からすげぇ昭和感出てんだけど」
「んはははっ」



さてはそういう事を普段からやっているのではないだろうかと多少穿った見方になりながらも、キングねぇ…と呟いた。



「別に…、本来の俺は全然キングなんかじゃないって知ってるだろ？」



あんなのメディア向けだよと吐き棄てるように呟けばあー…と気まずそうに苦笑された。
それから、でもさ…と、さっきよりも静かなトーンで紡ぐ北山の言葉に耳を傾けた。



「…藤ヶ谷は、確かにポンコツなとこ多いし、可愛いもん好きなメルヘンチックなとこあるし、走り方ちょっとカッコ悪かったりするけど」
「…おい」



さすがに黙って聞いていられなくて突っ込むと北山は穏やかな表情で目を細め、俺を真っ直ぐに見つめた。



「誰に対しても誠実で、優しいとことか…、思いやりがあってさ…女性を大切に扱うところとか、やっぱキングだなーって思うとこ…たくさんあるよ」
「……」
「少なくとも俺にとってはさ、藤ヶ谷はキングだよ。
ほら、今日だって…どれだけ藤ヶ谷に助けられたか分からない。俺が女だったら間違いなく惚れてたなー」



んははって陽気に笑って、それからまた優しい目を向けられた。



「勿論キングじゃないそのままの藤ヶ谷も好きだぜ。
だから、そんなわざと悪びれるような事言うなって」
「……」
「ん？」



解ったと言い聞かせるような瞳はやけに大人びていて、普段童顔でかわいいと言われているこいつは俺より二つも大人なんだとこういう時に思い知らされる。

好きだなんて…そんな簡単にそんな甘い顔で口にできる人間が、どうして愛情表現が上手くないなんて自己評価に至るのか分からない。
愛され上手なのも、愛情溢れるのも、俺なんかより全然長けているくせにどうして自覚が無いのだろう。

今だって、こんなに…。

昔からずっと、早く大人になりたいと背伸びをしていたのはいつだって決まってこういう表情を向けられた直後だったことを思い出した。

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