一日だけ、恋をした。

Last ページ18

メンバーとスタッフさんと合流して、MV撮影は滞りなく進んだ。
合間合間に二人きりで何していたのと弟組に興味津々に訊かれたが、お互いに特に何も無いよと笑って躱した。




ラストの不特定多数の人とハグをするシーンや北山が胴上げされているところを見た時は、大丈夫かとハラハラしながら見つめてしまっていたが、当人はあっけらかんと楽しそうにしていた。

まるで昨日のことが全て都合の良い夢だったんじゃないかと思うくらい、俺らの間に不自然な空気は流れなかった。



だけど、それでいい。
俺らはこの関係がちょうどいいんだ。

近づき過ぎてもいけない、離れ過ぎてもいけない。

お互いがお互いの事を気にかけて、何かあればすぐに手を伸ばせるような…そんな関係性が合っている。






──好き以外に理由がいるの？

──お前が思っている以上に…俺はお前が好きだよ。






気持ちは同じだと確認できただけで、それだけで俺はもっと強くなれるから。









「…あ」
「あ、……どーぞ？」
「ども…」



帰りの飛行機、窓際の席に座ると隣に北山が立っていた。
座るように促して、特に話す事もないまま鋼の翼は大空へ舞い上がった。

雲の上から真っ暗な夜空を眺めていると、肩にトンと重みが乗っかり視線を隣へと移す。
仕方無いなと笑みを浮かべると、眠ってしまったと思い込んだ北山の目は開いていた。



「……」
「…あのさ」



ポツリと言葉を漏らす。
静かに続きを促すと北山は俺の目を見ず話を続けた。



「……お前とのキスが、忘れられないって言ったら…困るか？」



言い終えて、真っ直ぐな瞳が俺を射抜く。
その目に迷いは感じられなくて、きっと北山なりに考え抜いて出した答えなんだと悟った。



「絶対…バレないようにするから。
お前の事は俺が絶対守るから…、だから…」



この手を取ってはいけない…
ファンの為に…何より、北山自身の為に…

そう、思っていた。



だけど、お前の方からそんな風に手を伸ばしてくれるなら…



「っ…！」
「じゃあ…、お前の事は俺が守るよ」



愛しさが溢れ出して隠しもせずに伝えると、北山はそれはそれは他人に見せたくないようなかわいい表情を見せてくれた。

みんな寝静まる密室の空の上、雲に触れるようにそっと唇を掠めた。







俺はあの日一日だけ、確かに君に恋をした。
そしてそれ以来君に向ける感情は恋ではなくて、もっと深く特別なものになったんだ──…。







fin

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