ここから始まる二人

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ただ呆然と北山の真剣な表情を見続けていると、それを良しと捉えた北山の顔が徐々に近づいてきた。

慌てて北山の肩を押し返し起き上がると、北山は不思議そうに俺を見て、それから少し気遣うような視線を向けてきた。



「藤ヶ谷？…やっぱ、怖いか？」
「そうじゃない、そうじゃなくて…っ」
「ん？…どうした？」



何でも言ってと諭すような口調で話す北山がめちゃめちゃ彼氏感満載で、俺も俺でどうしてこの食い違いに今まで気がつかなかったんだろうと内心頭を抱えた。



「俺がっ、お前を抱きたいんだけどっ…！」
「へ？」
「っ…」
「……あっ…、えっ？」



北山は少し考えた後俺の意図することを汲み取ったのかハッとして、それからカーッと顔を真っ赤に染め上げた。



「え、えっ、ちょ…っ…、お、おれ…ぇ…？」
「うん、北山」
「…〜〜っ」



どうして自分が抱かれる側でないと思っていたのか…
どうして俺を抱く気満々でいたのか…
俺が北山の下で感じてるとこなんて絵面的にちっともよくないのに…
……うわ、想像しただけで鳥肌…。



北山は分かりやすく狼狽えて挙動不審に視線を彷徨わせ、真っ赤な顔で黙りこくってしまった。

自分の思い描いていた立場が逆転するとなるとやはり躊躇しているのか、俺から少しずつ距離を取ろうとしている。
手をグイと引いて顔を近づけると、北山が僅かに震えた。



「……きたやま」
「っ…藤ヶ谷、お…おれ…っ…」
「俺、お前の嫌がることはしたくない」
「……」
「…でも、嫌じゃないなら」
「っ…嫌じゃ……ない…」



北山は小さく言って俺の胸に顔を埋めた。
嫌じゃない、その言葉が聞けただけで堪らなく安堵して、怖がらせないように優しく抱きしめた。



「あー…っ、マジか…俺が…」
「ふふ、うん」
「そっか…ぁ…」
「嫌？」
「……嫌…では、ないなぁ…」



俺の胸に顔を埋めたまま、先ほどと似たような会話が展開される。
嫌…、うん…嫌じゃねぇな…、と自問自答している北山が愛おしくて、髪をサラリと梳いてそのまま顎に手を掛ける。
しどろもどろになりながらも何かを決心したように目を合わせ、でも次の瞬間またぎゅーっと目を瞑って俺の胸にクタッと凭れかかる。

…ほんと、何だろこのかわいいの。

ついちょっと前まで漢らしい顔つきで俺を押し倒した人と同一人物とは思えないくらいすっかりかわいくなっている北山を目の前に、何だかもうこのままギュッてして眠るだけでも満足できそうな気がしていた。

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