ワガママ

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sideKi




クタクタになって家に着き、明るい玄関と見慣れたお洒落な靴に疲れが少し飛んだ。
リビングのドアを開け見えた姿に、先ほどよりも更に疲労感が和らいだ。



「来てたんだ」
「……」
「ふぅ〜、ただいまただいまー」



今月頭から始まった主演舞台も、早いものでそろそろ折り返し地点にきている。
難解な専門用語の羅列に始めは頭を抱えたし、こんな膨大な台詞を果たして感情を込めながら一字一句間違えずに吐き出せるものなのか…って、正直不安しかなかった。

その事を表立って顔に出していたわけでは無いけれど俺の不安をちゃんと汲み取ってくれていたようで、絶対大丈夫だから頑張んなと軽い感じで…でも力強く応援してくれた。
まだ全部終わったわけでは無いけれど、ここまで特に大きなアクシデント無く毎公演こなせているのは間違いなくこの恋人の影響が大きい。



「…うん？どうかした？」



だから今目の前で、微笑んではいるものの目が全然笑っていない不自然な顔をしている訳を分かってやれない俺は、一体どうしたらいいのだろうと必死に考えを張り巡らせていた。

こうなってしまった彼…藤ヶ谷は結構ガードが堅かったりするから、早いとこ吐き出させないとどんどん勝手に一人で考えを拗らせてしまう。
そうなる前に気持ちに寄り添いたいと思う。
堅いようで、実は意外と俺には緩いガードをこじ開けてしまえば後はこっちのものだ。

さて、今日は長くなるかな…？

戸惑いを覚えながらも微笑みかけていると、やがて藤ヶ谷はふぅ…と小さくため息をついて、いつもみたいに笑った。



「…別に、ごはん食べた？」
「んーん、まだ」
「そう思って簡単なの作っておいたよ」
「えっ、マジ？食べたいっ」
「…ふふ」



不自然に張り付けているんじゃない…、ふわりと笑う優しい顔。
それでも何かを諦めたような…言いたいことを飲み込んだような一瞬の表情をきちんと見て取れたから不安は残る。
どうしたというのか…、もしかして最近二人の時間が取れていないことを寂しく感じさせてしまっていたのかもしれない。

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