ここから始まる…かもしれない二人

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気持ちを認めてしまえば、そこからはあたふたと考えることを止めた。

ただ自分の思いに正直に行動した。
どうにか遣り繰りしたスケジュールで、宮田と一緒に藤ヶ谷の舞台を見に行った。

舞台終わりで少し汗ばむ前髪に触れて、胸の奥が苦しくなった。
触れたくなるから近づくなと困ったように笑う藤ヶ谷の言葉の意味を、ようやく理解できた。

もっと触れたい…、髪だけじゃなくて…指先だけじゃなくて、もっと…もっと…。
あの日感じた唇の温もりは俺の寝ぼけて見せた夢だったのか…確かめたい。



そう思ったら、ちゃんと話をしなければと思った。
疲れているのは表情を見て分かっていたけれど、明日藤ヶ谷は休演日だということは知っていたから少しくらいならと飯に誘った。

藤ヶ谷に合いそうな洒落た個室の店でも良かったが、それではやはり人目を気にして本音が話せないと思い自分の部屋に来るような選択肢の与え方をした。



自分のテリトリーに引き込んでしまえば、落ち着いて話ができるかと思った。
でもそれは部屋に招いて一分と経たずに間違いだったと思い知らされる。
後ろから包まれた温もりに、抑えきれない好きが溢れていく。
いつの間にか俺は、藤ヶ谷と同じ気持ちではいられなくなっていた。



『俺の気持ち知ってて、家に呼ぶってどういう事かちゃんと考えてる？』



考えてるよ。もう一生分の頭使ったんじゃ無いかってくらい考えたよ。

俺はもう逃げない。お前が…お前のことが、どうしようもなく好きになっちまった。



腰に手が回され一気に距離を縮められ、すぐ側に整った顔が真っ直ぐに俺を射貫いている。
きっとあの日も…俺がちゃんと起きていたらこんな顔を向けられていたのだろうか。
知りたい…今度こそちゃんと、藤ヶ谷の温もりを知りたい…
そう思って、藤ヶ谷の全部を受け入れようと、目を閉じたのに……









「ねぇ、きたやま…」



機嫌を伺うような藤ヶ谷の声に、だんだんと心が冷えていく。



「……っ……だ…」
「え？何…？」



振り絞った声は届いていないようで、形の良い耳が俺の口元に寄せられる。
お前のことが好きなんだと、伝えるつもりで家に呼んだのに…どうしてこうなってしまうのか。



「お前なんて……きらいだ…っ」



そう言って俺は、藤ヶ谷の胸倉を掴み…その胸に顔を埋めていた。

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