ここから始まる…かもしれない二人

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「お邪魔しまーす…」



初めて足を踏み入れる慣れない空間に視線を忙しなく彷徨わせながら歩いていると、前にいた北山にぶつかってしまった。



「わ、ごめん」
「…あ、おぅ…」



咄嗟に肩を抱いてしまった手が気まずくて、だけどすぐに離すのも勿体なくてそのままになっていたら、北山が僅かに身じろいだ。



「座って待ってて。簡単なものしか出せないけど」
「っ…あ、うん！」



もしかして、北山の手料理！？

あまりに急すぎる展開について行けずにソファーの端っこに座って固まっていると、キッチンから目が合った北山がフッと笑った。

何なんだろう、この感じ。

ソワソワしながらも今日の感想を料理しながら伝えてくれる北山に俺も言葉を交わしているとだんだんと空気に馴染めてきて、自然な笑みを向けることができた。
そう思ったのは、肩の力を抜いて笑ったときの北山がすごく優しい顔をしたことに気づいたからだ。



「ほい、どーぞ」
「美味しそう」



北山の出してくれた料理は至ってシンプルな肉野菜炒めだったけど、ひとくち味わうとそれはとても美味しかった。
味ももちろんそうだけど、北山が俺のために振る舞ってくれたというのが大きい。

この幸せすぎる時間を噛み締めながら一口も残さず綺麗に平らげると、北山はホッとした顔を見せた。



「良かった、ちゃんと食べてくれて」
「え？」
「ほら…、あんまり食べれてないみたいだったからさ」
「あー…」



確かに、まとまった時間が取れなくて食事の優先順位がかなり下がっていたような気がする。
それをうっかりログに書いてしまった次の日なんかはわたや玉が心配そうに話しかけてきたっけ。



「バナナだけとか、そんな食生活いけませんっ。
ちゃんと肉も野菜も食わなきゃ元気出ないぞ」



茶化すように言ったのは俺があまり重たく受け止めないようにという配慮からなのだろう。
そういうことをさらりとやってのける北山は、いつだってすごいなって思うし見習わなきゃいけないなと思う。



「…ま、お前はお前なりにちゃんと体調管理してるのは知ってるからあまり心配はしてないけどさ。
…それでも、少しは心配してるよ」
「うん、…ありがとね。北山」
「っ、お、おうっ」



普通に感謝の言葉を口にしただけなのに、ほのかに染まった顔を隠そうともせずに綺麗に笑うから、もう…我慢できなくなってしまった。

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