うれし涙

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「……っ」



それこそ、大人の色気をふんだんに纏う今の藤ヶ谷からかわいいなんて言われたら、俺はもうどうしたらいいか分からなくなる。
しかもそのかわいいに対して意味は込められていないから尚タチが悪い。



「…きたやまはさ、俺にかわいいって言われるのは嫌？」
「っ、な…、…えっ？」
「ほんとに嫌なら、もう言わない」
「…っ」
「嫌がる事…したくないから」



急にそんな、真面目なトーンになんなよ…。
調子狂うな…、もっとこう、アルコールの勢いとかで嫌なのー？とか間延びした感じで聞いてくれりゃあ、俺だって笑いながら嫌だねって言えるのに。



「……バカに、してる訳じゃないなら…別にいい」
「っ、し、してない！ほんとにかわいいって思ってるよっ？」
「…ふはっ、お前それはそれでどうなんだよ。クククッ…」



何だか必死な様子がおかしくて、もう何でもいいやと肩を竦めた。
かわいいが藤ヶ谷なりの愛情表現の一部なんだとしたら、それは俺にとって嬉しいもののはずだから。



「かわいいねぇ〜。こんなおっさん捕まえてみんなよくもまぁそんな事言えるよなー」
「顔だけはほんとかわいいからね」
「…顔だけって限定されるとそれはなんかビミョーな気持ちになるのな」
「顔以外は、ザ昭和の男って感じだもん。
永遠の16歳設定もちゃんと守ってね？」
「設定言うなっ」



……ふっ。



お互い顔を見合わせて、同じタイミングで噴き出した。
マスク越しでも、穏やかに細められた目元で藤ヶ谷が優しい顔で笑っている事は容易に察しが付く。



あぁ…、でも。

その表情は、マスク越しじゃなくてちゃんと見たかったな。



「…あ、見えてきた」
「近かったな」
「ね。やっぱ呼ばないで歩いた方が早くて正解だったね」
「……そーなぁ」



普通はそう思いますよねー。

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