うれし涙

4 ページ4

「おいしい？」
「ん、美味いな」
「ハラミ食べたい」
「ほいよ」
「あー…」
「え、んはは、甘えないで下さーい」
「あー…っ」
「えー…、……しょーがねぇなぁ。…ん」



男が男にあーんとか、どういう絵面なんですかね？
でも藤ヶ谷の満足そうな笑顔見たら、まぁいいかと絆されてしまう。
俺もこいつには甘いからなぁ。



「脂っこいの嫌なんじゃなかったんですかー？」
「だってきたやまがすごく美味しそうに食べてるから気になっちゃった」
「美味いだろ？」
「うん」
「やっぱ肉も魚も揃ってるとこがいいよな〜」
「喧嘩しなくて済むね」
「確かにっ」



藤ヶ谷はそろそろ限界なのか飲み物を烏龍茶に変えた。
俺はまだいけるかなと日本酒を頼みちびちびと嗜んでいると、藤ヶ谷の優しい視線とかち合った。



「…ん？」
「あのさ、…ごめんね」
「へ？」
「…んーと、今朝の事」
「今朝？何かあったっ……、…あ」
「そう、多分それ」



藤ヶ谷の言っている事…、それは今朝仕事が始まる前楽屋で待機していた時の事。
昨夜二階堂がラジオで未発表の情報を話してしまった件で、横尾さんが苛立ちながら二階堂を責めていた。

最近気になる発言が多い、気が緩んでいるんじゃないのか、もっと意識してくれないと困る。
そんなような事を、割と強めに二階堂に言っていた。

千賀はその場にいたから申し訳なさそうな顔をしつつも、二階堂も反省しているから許してほしいと下手に出ていて、二階堂自身も堪えていたのか何も反論せず黙って横尾さんの話を聞いていた。
それが横尾さんには不貞腐れていると見えたようで、ちょっと楽屋がピリついてしまった。
俺は何も言わず黙って一連を見ていたけど、二階堂がチラッと俺に視線を向けてきた。

助けてくれと言われているように感じて…、俺は思わずSNSを開いてスマホを二階堂にぞんざいに押し付けた。



『…それ見て、少し反省しろ。このままだとお前やばいよ？』



どうしても言わずにはいられなくて、本人も充分に分かりきっているであろう言葉を吐き捨ててしまった。

5→←3

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す