静かな会話と夜 ページ49
４８．
ふぅ
人知れず、霧璃歌はため息を吐く
「三回目」
「‥‥？」
見なくても不思議そうにするマンジローの姿が容易に想像できる
「二回目？ いや、５回目かな？ とにかく今日だけでそれを何百回も、聞いた気がするよ〜
霧璃歌は呆れたように、疲れた様に続ける
理由なんか、なくていーじゃん。それ、必要かい？ マンジロー」
「‥‥‥」
黙るマンジロー
(必要かな〜‥‥)
ふうっと今度は心の中で息を吐く
「別に半端な気持ちで来たわけじゃない
だから、マンジローは「私が勝手についてきただけ」、そう思うだけでいい
私は自分のために、ひいてはマンジローの為にもなるように付いてきた。そして、これから頑張る。それだけ」
(マンジロー、君は後悔しなくていい。天上天下唯我独尊のままでいいんだよ〜)
「‥‥‥」
「って、カフェの時にも言ったか〜」
真剣な雰囲気を吹き飛ばすように、おちゃらけて言う
夜というのもあって、空気が重苦しくなってしまう
「‥‥ありがと」
ずっと、黙っていたマンジローが口を開く
「？ ふふ、お礼を言われるほどの事はしてないけど、それはありがたくもらっておこーう」
霧璃歌は軽く笑う
調子が良い
暗い天井に目を向け、そして再び目を閉じる
並んで寝っ転がったまま、視線はお互い、あわなかった
「寝れそう？マンジロー」
「わからない。‥‥‥でも、今日は寝れそうだ‥」
「そっか、おやすみ。マンジロー」
「‥‥‥おやすみ」
しばらく何も言わず、それでも手は握ったまま霧璃歌はベッドに横になっていた
程なくして、小さいマンジローの寝息が聞こえてくる
手を握る力は残ったまま
・・・・・・・
ギシッ
霧璃歌はベッドから身を起こして、万次郎を見る
その寝顔は昔とは違い、無表情でどこか苦しげだ
万次郎の頭を撫でる
サラッと真っ直ぐな白い髪が霧璃歌の指を滑る
昔のふわふわな髪の毛もよかったけど、今のさらさら髪もまた良し、と霧璃歌はしばらく、万次郎の頭を撫でる
目の下の濃い隈を見る
きっと、この濃い隈はマンジローから離れることは無いのだろう
そんな予言じみた予感を抱き、霧璃歌は想う
(せめて、
霧璃歌はただ、願い、祈り、優しく頭を撫でつづける
霧璃歌はまだ、眠らない
〈小さな願い、かすかな祈り〉
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作者名：潮見 不可 | 作成日時：2022年8月16日 17時
