車内にて ページ35
３４．
返信し終わり、会話が一段落する。そして霧璃歌がページを閉じると同時、
ヒョイ
「も〜らい、なに見てんの？」
「あ〜、ちょっと灰谷兄‥」
灰谷兄が横からヒョイッと霧璃歌のスマホを奪う
「なになに？」
灰谷弟ものっかってくる
だが、灰谷兄弟は霧璃歌の両脇に座っているわけで、必然的に霧璃歌の目の前でスマホを見る事になる
で、霧璃歌は現在進行形で自分のスマホの中身を目の前で見られている
(はあ〜‥‥)
「見るなら、本人の目の前じゃないとこで見てよ〜、灰谷兄弟」
「本人の目の前じゃなかったら、見てもいいの？」
現実感が抜けた会話だ。霧璃歌は少し考えてから、話す
「ん〜、まぁ、見られて困るものは無い！ とまではいかないけど、そこまで困るものは無いし‥‥
どうぞ？って感じ」
「お〜、キリューちゃん太っ腹」
「太っ腹はやめて」
灰谷兄弟がスマホを見始めて１０分
(つまんなーい)
霧璃歌は退屈していた
(私のスマホになんか、面白い物入ってたかな〜‥。何が入ってたっけ？ 忘れた)
「ねぇ〜、なんか面白い物でもあった〜？」
「いや〜、何もないわ。お手上げ」
「びっくりするほどなんもなかった。入ってるアプリがプリインストールのとオセロとチェスだけってなに‥‥」
「私はパソコン派なんだよね〜。残念ながら。でも、スマホを毎日持ち歩くだけの習慣は持ってるよ〜」
はたして、
「なぁ、キリュー」
「なーに？ 灰谷弟」
珍しく、灰谷弟から霧璃歌に話しかけてきた。神妙な表情だ
いや、珍しく、を付けられるほど、長い付き合いではないのだが、灰谷弟から話しかけるのは稀だ
「さっき、“そこまで見られて困るものはない”って言ってたよな」
「うん、言ったよ」
「なら、少しは見られて困るものはあるってことか？」
灰谷弟が手の中にある、未だに盗られている霧璃歌のスマホに視線を移しながら尋ねる
「‥気になるの？」
「蘭ちゃんも気になる〜」
「んふふ、秘密〜。どうしても気になるなら、自分で調べてみて〜」
(あー、まただ。自分がどんな顔してるかわかんない。いや、これは前からだったかな？まぁ、いいや)
「‥‥へー」
「‥‥考えとく」
いつのまにか走り出していたリムジン
うすく朱がかかり始めた空を車窓から眺め、霧璃歌は心にもないことを微笑とともに言う
「そう？ 残念」
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作者名：潮見 不可 | 作成日時：2022年8月16日 17時
