通帳とソーチョー ページ4
３.
「‥‥やっぱり」
霧璃歌は手元の通帳をじっくり見ながらつぶやいた。
飛び出るように家から出た霧璃歌。その３０分後、銀行のATMで残高を確認すると予想どおり、約２０万円のお金が霧璃歌の口座に振り込まれていたのだ。
(今日は確か、２１日。今月は全部で３０日間。‥‥‥ふふ、優しいね〜。そんなんだから出世できないんだよ、ヒス長)
霧璃歌の仕事先の店長は、時折、イライラが大噴火してヒステリックになってしまう人だった。が、それ以外は比較的真面目で常識人の、普通に出世できそうな人だった。その良い部分をすべてぶん投げてしまうのが、このヒステリック病だった訳だが。
(あの人のことだから、電話の後、すぐ正気に戻ってどうしようどうしようって散々、落ち込んだ後「いや、これは良い決断だった」と気づいて、「でもいきなり
ずる賢いことを考えながら一人笑うその様はさながら小悪魔。だが、悲しいことに霧璃歌の読みはすべて当たっているのある
「でも惜しかったなぁ、あの職場、結構楽しかったんだけど‥‥」
(特にあの、ヒス長が)
いや、断言する。悪魔である
「次の職場、どうしようかな〜‥」
その声は明らかに落ち込んでいる様に聞こえるが、その実、霧璃歌の顔はニッコニコでいかにも楽しいといった様子だ
(ま、しばらくはいいか〜、お金には困ってないし)
そう笑う霧璃歌のバッグの中の通帳。総残高には五千七百万円の文字がしっかりと印刷されてあった
「ん、帰るか」
・・・・・・・
「あれ‥‥‥？ 私、どうしてこんなところに」
霧璃歌の目の前には和菓子屋があった。
夢から覚めたように、驚いた顔で呆然と和菓子屋の看板を見つめていると、突然何か合点がいったように懐かしそうな顔をして霧璃歌は店の中を覗き込む。
(そっか、ソーチョー達の事、久しぶりに思い出したからだ‥‥。最近、甘納豆も食べてない。
買っていこうかな〜。たい焼きも一緒に)
「ありがとうございました」
「どうも〜」
(カード使えますかって聞いたら驚かれたけど、使えてよかった。今、現金少ないから‥)
レジに背を向け、甘納豆やたい焼きやらが入った紙袋を抱え出口に向かう霧璃歌。
(早く家帰って食べよ〜)
カララン 「いらっしゃいませー」
「！‥‥‥‥キリュー」
「？‥‥ッ‥ソーチョー」
〈フラグ回収〉
ラッキーアイテム
革ベルト
ラッキーカラー
あずきいろ
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作者名：潮見 不可 | 作成日時：2022年8月16日 17時
