やっとかよ (ページ3)

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小6になると場地はよく怪我をするようになった。
ヤンチャをするようになったからだ。
今日だって、隣町の奴らと喧嘩をして血を流す怪我をしてしまった。
小さな傷だ。別に死ぬほどのものではなかった。
このくらい平気だったのに、血を垂らす場地を見つけた女は凄い焦りようで場地を引っ張ったのだ。

何処にそんな力があったんだと言わんくらいに引っ張られた場地は驚いた猫のような顔をしながら女の部屋を訪れた。
前にこの部屋に来たのはもう随分前になる。
ボンヤリと覚えている部屋と少し変わっているような気がする。
警戒する猫のようにジと観察する場地に女は「コレね、美味しいのよ」とチョコレートをくれた。
友達が小さい妹達に上げると喜ぶと言っていたやつだった。

チョコを見詰める場地にちょこんと座った女は覚束無い手つきで怪我の処置を始めたのだ。
場地はチョコから目を離し「大丈夫だって」と女に言うが女は真剣であった。
こうなった女は面倒臭い。
結局負けたのは場地であった。

チクタクと秒針の音と処置の音だけが部屋に響く。
やる事がないのでひたすらチョコを食べた。
口の中が甘い。
口の中が甘い場地はコッソリと女を盗み見た。
暇だったから、しょうがなく女を見るのだ。
バレないようにコッソリと。

近くで女の顔を見たのは久しぶりであった。
いつもは野郎とつるんでいるので、コイツのまつ毛長ぇなとボンヤリ思った。
相変わらず肌が白い。
場地の焼けた肌と並ぶと、その白さがよく際立つ。

そういえば日焼けすると赤くなると言っていたっけ。
痛くなるからと、外に行く時はチマチマと日焼け止めを塗っていた。
女は集中しているのか唇を噛み締めていた。
その唇は赤く、触ると柔らかそうだな。なんて考える。

「けーくん？」

バチりと、顔を上げた女と目が合った。
咄嗟に場地は顔を逸らした。
驚きからか、それとも違う感情からかは分からない心臓の激しい音がうるさかった。
耳の隣で鼓動しているみたいだった。

「……真っ赤ね。トマトみたい」

フと笑いながら女はその白い手が場地の頬に添えた。
触れられた場所が少し冷たくなる。
「な」と声が震えた。

「何でもねぇよ」
「ほんとう？一応熱も測ろうか？」
「いい。いいから、俺もう行くわ」
「あ、まだ終わってない」
「こんくらい平気だわ。あんがとな」

やけに大きな声で、場地は逃げるように部屋を飛び出した。