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「この人は嘘をついてます!無線は壊れてる。SOSなんて送ってない!私を船に閉じ込めました!こんな人に騙されないで!」


何故か驚きは少なかった。
どこかで覚悟していたのかもしれない。
山本さんを見ると、諦めたような悟ったような顔をしていて、とうとう底が見えたと思った。

動揺した様子で白浜さんが問い詰める。


「『帰る』『戻れる』って言ってあげた方がみんな喜ぶ。それだけですよ」

「俺は最初から無理だと思ってたけどな」

「それはそうですよ。それよりこの世界で生き抜くべきなんです。だから僕はみんなに希望を与えてまとめ上げて、ゼロからの王国を創るつもりでした」


彼の発言をマウントをとっているだけだと、笑い飛ばす萱島さん。

私は勝手な論理を並べる山本さんの独りよがりさに腹が立っていた。

学歴も職種も何も関係のないこの場所は、みんな平等で上も下もない。
それなのにここまできて、地位を手にしようなんて馬鹿げてる。
希望を与えたなんて、ただの詭弁でしかない。


言い草に腹が立ったのか、ゆっくりと萱島さんの元へ歩く山本さん。
目の前に立ち、じっと見据える。


「じゃあ貴方はなんですか?帰るなんて無理、未来を変えるなんて笑える。ただ逃げているだけの一番ダメな奴!一番、弱い奴」

「やめて!ここにいる全員を騙していた人に、他人を語る資格なんて無い!」


泣きそうになる程に怒りが込み上げる。
何も知らないこんな人が、彼を貶むなんて許せない。

二人の間に立ち、思いきり山本さんを睨みつけた。


「でも、俺の負けか」


周りを見渡し、もうここまでかと悟ったのか、小さくそう呟くと、何かノートのような物を白浜さんに差し出す。

そしてそのまま歩き出し、彼は姿を消した。


その受け入れ具合なのか、表情か。
彼の態度から、いつかこの時が来ることを覚悟していたんだろうと感じた。

羨望が失望に変わってしまうことを待ち受けるのは怖かったんじゃないかな。
気づけば同情していることに、なんとも言えない気持ちになる。


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作者名: | 作成日時:2023年8月20日 22時

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