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「しんど、終わりはもうすぐそこまで来てるのに、それでも前に進め。助かる保証も無いのに。しんどすぎるだろ」
萱島さんは海を見ながら怠そうに呟いた。
そしてそんな嘆いている姿を見て、白浜さんが口を出す。
「もし無事だったら、来年も海に行こう。俺は泳げないから、スイカ割りでも」
「楽しそう。萱島さんもやりましょう。スイカ割り」
「ガキかよ。その前に地球割れんだろーが」
まだ完全に政府の作戦に乗り切れていない萱島さんも、なんだかリアルで彼らしくて、妙に納得している部分もあった。
そして二人も、そんな表情で萱島さんを見ていて、何も話さなくても通じている様な感覚を覚え、もはや家族なんじゃないかと思えてくる。
海、来てよかったな。
ここのところ、萱島さんの空気が柔らかい気がする。
オーナーのすみれさんに聞いた話だと、美容師の仕事を少しずつ再開しているらしい。
簡単なヘアアレンジ程度で、ちゃんとお金をもらう施術では無いけど、無くしかけていた大事な物をちゃんと離さず、また歩き出せたようで、なんだか親のように誇らしかった。
私もそろそろ、歩き出さないと。
「萱島さん、私実家に戻ります」
「突然どうした」
驚いたのか、すぐにこちらを向いてくれて、私の前に腰掛けた。
「突然じゃないです。ずっと考えてました。萱島さんといて、辛いことから逃げられて、色んな事を耐えて耐え抜いて、時間がかかったけど、私少しは強くなれたと思うから、もう一人で立たないと、この世界が終わる前に」
「そっか、、俺」
納得した表情で、何か言おうと顔を上げた。
すかさず私が口を挟む。
「何も言わないで下さい。私萱島さんに何も望んでないから。だからこのまま何も言わないで。それも私達らしいんじゃないかなって思うから」
「、、そうかもな、じゃあ」
静かに笑うと、手を差し出された。
何だか萱島さんっぽくなくて、自然と私も笑ってしまう。
そしてゆっくりその手を取り、私たちは離れた。
私はまた逃げたのかもしれない。
正式に振られるのが怖くて、萱島さんの口を塞いだ。
どっちつかずでいられれば、また隣に立てるかもしれないなんて、ずるい私がいるから。
最後までかっこ悪いなぁ。
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作者名：藍 | 作成日時：2023年8月20日 22時
