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「何で、せっかく今があるのに、何で二人ともそんな死んだ目をしてる?」
「命が助かっても、救われないんだよ」
「向こうの方が良かった。何もないけど、何もないだけの方がよっぽどいい。こっちは、知りたがる癖に上部だけすくって、言いたいだけ言うような、心を捨てたような人しかいないから」
あの森の中での関わりは、みんなちゃんと向き合っていた。
人とも、自分とも。
だからこそ、その人を知れて、ぶつかりながらも、共に生きられた。
こっちでは、毎日誰かしらを叩きたい、ほじくり返して笑いたい、そんな言葉ばかり溢れて、人間の本質なんて見ようともしない。
そんな歪な世界を救ってなんの意味があるの。
「この世界を助けたいとは、どうしても思えないんです」
人が死ぬのを黙って見ているなんて、許されない。
でもどうしても前に進めないから。
自分の倫理観が歪んでいくのが、苦しい。
白浜さんのように生きていけない悔しさが、涙になって地面に落ちた。
「ほら行くぞ」
萱島さんに手を引かれて、白浜さんから離れる。
やっぱり彼の隣は心地いい。
苦しくない。なにも見なくて済むから。
この世界が終わるなら、萱島さんとなら、もうそれでいいや。
それから数日経った頃、萱島さんにスマホを見せられる。
「白浜、ひどいことになってる」
「え?白浜さんが?」
そこには火災現場で必死に仕事をしようとしているのに、白浜さん目当ての野次馬に妨害されて、あげくの果てに針のむしろのように責め立てられている姿が映像に残されていた。
それに対してのコメントでも、ひどい言われようだ。
「ひどい、なにこれ、、」
「みんなを守るヒーローが、そのみんなに叩かれて、まだ前向けんのかね」
「会いに行きましょう。このままには出来ません」
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作者名:藍 | 作成日時:2023年8月20日 22時