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畑野先生の身を案じながら、椅子に横たわり電車の天井を眺めていた。
私がもっとあの場をどうにかできていたら、結果は変わっていたかな。
大人しく、身を差し出せば何とかなった?
そんな自分の考えに背筋が凍り、身震いした。
一度染まってしまった思考回路からは、やっぱり抜けられない。
あの悪夢を繰り返そうとするなんて、
ドアの音がして顔を上げると、白浜さんと萱島さんの姿があった。
「向こうに行ったんですよね?畑野先生は、」
暗い顔をした二人の口から告げられたのは、予想打にしない内容だった。
「それって、殺人ってことですよね」
ゆっくり頷く白浜さん。
向こうの車両で得た情報は、こっちの世界に来た直後、ナイフを持った男が激昂し暴走した為、山本さんが止めようとした。
揉み合いになってその拍子に、ナイフが刺さり殺してしまったという内容だった。
あの死体を見た光景が蘇る。
人を殺した人間が、これだけ身近にいて、普通に会話を交わしていたと考えると、血の気が引くような感覚に襲われる。
その一方で、初対面時の直感は当たってたんだと、妙に納得している自分もいた。
戦いに行こうという声があちこちで湧き上がった。
声を荒げ、怒りのボルテージが増していき、まさに戦いの前という雰囲気。
それは自然な反応だと私は思う。
畑野先生の事を考えると、絶対に許せない。
「俺もやれって言われたらやるよ」
「こういう時こそ、落ち着いて冷静に対処しないと」
「そう言うと思ったよ。白浜さんは」
今にも殴りこみに行きたいという空気に包まれている萱島さんと、どうにか冷静に頭を働かそうとする白浜さん。
また、二人は相対していた。
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作者名:藍 | 作成日時:2023年8月20日 22時