69 ページ19
.
その瞬間江口くんは走り出し、その後を追うように萱島さんと私も走った。
私の走るのが遅くて、どんどん江口くんと引き離されて行く。
雨で地面が滑って走りずらい。
「ほら、手掴まれ！」
「大丈夫です！先に言ってください！」
「いいから！」
萱島さんに引かれながら走るも、私の足が早く動く訳でもなく、ただ私のペースに巻き込んでいるだけで、
「一人で大丈夫です！もう頼られるばかりは嫌って言ったじゃないですか！」
「今そんなん言ってる場合じゃねぇだろ！」
萱島さんを突き放して、彼と向き合った。
抑えていた思いはもう堰を切ったように、涙と一緒に溢れ出していた。
「もう大事な人が離れるのは嫌なのに、萱島さんは心の中に土足でズカズカ入ってきて、だけどいなくなろうとして、一人で勝手に傷ついて、人に期待なんてしたくなかったのに、なんで、、」
「なんで泣くんだよ」
「もういいんです！もう好きなんです、ただ萱島さんが好きで、傷つくってわかるけど止められないんです！」
これで終わりでも構わない。
もう止められなかったから。
顔をあげると、彼は泣きそうな顔で笑っていた。
その表情にどんな意味があるのかわからずに、彼の言葉を待った。
「やっぱり強いよ、Aさんは」
自分を笑っているかのような、自虐的な笑顔で、見ている私の方が苦しくなる。
彼は振り返り背中を向けた。
「俺は怖い。期待して、裏切られるのは辛いって知ってるから、だったらずっと一人でいい。誰にも何にも期待したくない」
泣いているであろう声色で、振り絞るように出てきたその言葉は、まさに萱島さんのすべてだと思った。
彼の嫌な態度は、自分の弱さを隠す為の鎧。
強がって、一人で立ち続けているけど、その背中はボロボロに見えた。
どうしたら、彼を救えるだろう。
どうしたら、安心してもらえるだろう。
「私はいる。側にずっといます」
ゆっくりと振り向く萱島さん。
そして慰め合うかのように、どちらからともなく抱きしめあった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 93人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：藍 | 作成日時：2023年8月20日 22時
