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「俺はさ、正直1ミリも戻れるなんて思ってないから、このままここでずっと暮らすなら、水も食料もあっちの方がありそうだし、ウマが合えば向こうで暮らすかも」
俺も行くと萱島さんに近づく白浜さん。
それを手で制止した。
「あんたはここのヒーローだろ。じゃ頼んだよ。みんな、お疲れ」
せっかく、彼と出会えて、生き方が見えてきたと思ったのに、ここで終わっちゃうの?
「萱島さん!」
名前を呼んでも、それは届いていないのか。
後ろも見ずに足早に離れて行った。
何が起こったのかわからないといった空気で、辺りは静まりかえる。
それを破ったのは米澤くんだった。
「萱島さんだけじゃ、向こうでどうなるかわからへん。とりあえず着いていかんと!」
「米ちゃん!一緒に行くよ!」
米澤くんと加藤さんが、後を追うように小走りで森に入っていく。
「待って!私も行きたい!」
二人と目が合う。
あからさまだったかな、でもどう思われても、これで終わりなんて絶対受け入れられない。
「はよ行こ!見失う!」
三人で急ぎながら萱島さんを追って行った。
「何、バレバレだよ」
萱島さんに見つかると何言われるかわからないと、コソコソしていたつもりなのにあっという間にばれてしまう。
「お供します」
米澤くんと加藤さんとヘラヘラ誤魔化すも、見るからにウザそうな表情をされる。
でもそんなのかまわない。
もう何かを諦めて生きるのは嫌。
鬱陶しがる萱島さんの後を子ガモのように着いて行き、喧騒響く車両にたどり着いた。
萱島さんが大声でお邪魔しまーすと告げ中に入っていく。
うちとはまるで違う車内の雰囲気に、居心地の悪さを覚えた。
これって、チンチロ?
昔何かで見たことがある、サイコロを使った賭け事だよね。
初めて見るそれはまるで子供の遊びのようなものだけど、私はサイコロの行く末を、息を飲み祈りながら眺めていた。
なんでこんなことに、、
状況は飲み込めないまま、サイコロの鳴る音が響き渡る。
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作者名:藍 | 作成日時:2023年8月20日 22時