61 ページ11
.
向こうの車両との対立関係が解消されて、心の大部分を占めていた不安が消えると、ぽっかり穴が空いたように寂しさがやってきた。
敵はいなくなった。
でも味方もいないような感覚。
きっと私の事を思って、泣いてくれている人はいないから。
戻りたいと漠然とした思いはあったけど、意味がやっぱり見いだせない。
白浜さんと江口くんが山本さんから受け取った手帳を眺めていた。
「あの山本が言ってた通り、2026年に起きる大災害の経緯が書いてある」
「何か、ヒントがあるかもしれない」
何から何まで出まかせだったわけじゃなかった。
私たちの世界は大災害に襲われた。
だけど、耳で聞くだけではどうにも実感は湧かない。
江口くんは寺崎さんが持っている石について問いかけている。
寺崎さんが拾ったオーロラと共鳴して光る石。
現代では見たこともないような石で、調べようと寺崎さん江口くん加藤さんで話している。
帰ることに、みんな前向きなんだ。
積極的になれないことに引け目を感じていた。
「ねぇ、何か塩が取れるかもって」
立花さんの一声に、わっと全員が沸き立つ。
味のない物しか口にしていない私たちは、みんな食べるたびに虚しさを感じていたから、
「あー！もう！向こうの奴らムカつく！」
玲奈さんと明石さんが森から出てくると、塩の話を二人から聞いた。
どうやら川の側で湧き出る温泉から塩が取れるらしい。
でも、釣りも温泉も向こうの車両の人間に制限されたと、玲奈さんはブチギレていた。
それを宥める明石さん、なんか今までと二人の雰囲気が違う？
白浜さんが挨拶をする程度に話してくると、歩き出そうとする。
萱島さんが立ち上がった。
「俺が行くわ、何なら向こうの車両で暮らそっかな」
「せっかく石とか色々調べて帰る手がかり研究しよってなってんのに」
江口くんにごめんと告げるとそのまま歩みを進める。
萱島さん、本気？
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 93人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：藍 | 作成日時：2023年8月20日 22時
