桜前線 1【GO】 (ページ15)

今日:22 hit、昨日:74 hit、合計:4,079 hit

15　帰る帰らない口論ページ15

「神童く＿」

ノックしようと、右手を出した時。扉の奥から厳しい声が聞こえてきた。

「帰れって言ってるだろ！」

思わず体が固まる。喉の奥からひゅっと声が出た。神童くんの声。他にも誰かいる。声が聞こえてくる。

「でも円堂監督となら、本当のサッカーやれるって思うんです。昨日河川敷にみんな来てたんです」
「だったら、尚更俺がキャプテンじゃなくてもいいだろ。誰がやったって同じだ」

吐き捨てるような強い言葉。こんな声、はじめて聞いた。

「それに、円堂監督だっていつかはフィフスセクターの言いなりになる。もう帰れ」
「俺、帰りません！」
「しつこいんだよお前は！帰れって言ってるだろ！」

聞いているだけでこちらも身構えるような会話。緊張感が漂う。しばらくしてから、声が再び聞こえてきた。

「...わかりました。帰ります。生意気いってすみませんでした」
「...」
「最後に一つ、お願いがあります。フォルテシモを見たいんです」
「帰るんじゃなかったのか」
「帰りません！」
「どっちなんだよお前は。帰るのか、帰らないのかはっきりしろ！」
「帰りますけど、帰りません！」
「お前な......。」

怒りの篭った溜め息が小さく聞こえてくる。

「キャプテンと一緒にやりたいんです。キャプテンじゃなきゃだめなんです！」
「しつこいんだよお前は！」
「お願いします！！」
「帰れって言ってるだろ。お前が帰らないのなら、俺が出る」
「そんな...キャプテン...」
「俺はもうキャプテンじゃない」

不意に扉が開かれた。驚くあまりお盆を落としそうになったが、寸前で神童くんが支えてくれた。指が重なり合う。

「Aさん？どうしてここに」
「晩御飯食べてないかなと思って＿。」
「...心配かけてすみません。後で頂きます」

彼はお盆を受け取る。その時、神童くんの肩越しに茶髪天パの少年と目が合った。その目は誰よりもまっすぐで、力強い。その目は純粋な希望を語りかけていた。

「あの、神童くん」

神童くんは一直線にこちらに目を向けていた。

「私もフォルテシモ見たいな」

サッカーと向き合うきっかけになるなら。そう思い、自分からも希望を伝えた。