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あの後、結局彼を見つけることはできなかった。
少し落胆しながらも、どうせ会えることの方が奇跡なんだと自分に言い聞かせながらバイトに向かった。

そして冒頭に戻る。






「 あの…、朝会いましたよね? 」

「 ですよね!あの時、俺がぶつかったせいで会話の邪魔しちゃってたみたいですね。すいません。 」


「 !…実はその、違くて。勧誘断れなくて困ってて、あなたがぶつかってくれたからなんとかなったんです。 」

「 え!そうだったんですか? 」






初対面なのにすごく話しやすい。
彼は話し上手でもありながら聞き上手なんだと思う。

初めてバイトの時間が楽しいと思えるような、そんな時間だった。





「 あ、自己紹介まだでしたね。俺、弟者っていいます。 」

「 …Aです。弟者さんは一年生ですか? 」


「 はい!Aさんも一年生? 」

「 そうです、よろしくお願いしますね。 」




軽く会釈をすれば、爽やかな笑顔で同じ言葉を復唱される。
なんだか陽だまりみたいな人だ。

その後はお客さんが少なく、二人で話す時間の方が長かったこともあってかバイトの時間が楽しく思えた。






「 Aさん、いつからここでバイトしてるんですか? 」

「 高校生の時からです。弟者さんは、バイトするのは初めてですか? 」


「 そうなんですよ。 」

「 初めてなのにここ来たんですね、変わってる。 」





私はくすくすと笑ってしまった。
それを見てか弟者さんは照れくさそうに笑う。

私と同年代の人はあまりいないため、学生バイトは重宝される。でもなんでわざわざここを選んだんだろう?




「 あ、それよりタメなんで敬語やめません? 」

「 そうですね、なんかよそよそしいですしね。 」


「 って言ってまだ敬語使ってるじゃないですか。 」

「 お、弟者さんも! 」





私より背の高い彼を見上げるように、目を合わせればすぐに目を逸らされてしまった。
私らしくない、話に夢中になってつい反論するくらい熱がこもってしまっている。




「 ごめんごめん、つい癖で。俺のことはさん付けで呼ばなくていいからね。Aちゃん。 」

「 !…あ、うん、 」





別に大したことじゃないけど、男性からそうやって名前を呼ばれることって今までなかったからか無意識に照れてしまう。

動揺を隠しきれていないけど、なるべく平常に振る舞おうと彼の横から離れ作業を始めた。
なんだろう、意識してしまう。





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作者名:まる | 作成日時:2024年3月12日 18時

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