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「そうか……急に押し掛けて悪かったな」
「いえ、こちらこそすみません……姉といえば、呑気に町に出掛けてしまって」
「あー……いつも、ああだよな」
「いつも、ああですね」
二人、顔を見合わせて、吹き出す。
それが、何故だか心地よい。
あれから……二人で団子を食べたときから、やたらAさんと関わる機会が多くなったように感じる。
今日も、任務についてお話があったようで、わざわざ屋敷に出向いて下さったというのに、肝心の姉は留守にしていた。
ただ待たせてしまうのは申し訳なく、とりあえず中に入ってもらって、お茶を淹れる。
やっと一息ついたところで本題に入ると、Aさんは困ったように笑った。
「胡蝶も大変だな……気ままな姉をもって」
ここで言う胡蝶とは私のこと。
姉も胡蝶だということに、Aさんは気づいていないのだろうか。
「そうですね、困っていないと言えば嘘になりますが……尊敬はしています」
言いながら、Aさんが湯飲みに口付ける動作を見つめてしまう。
あまりに綺麗で……姉さんが言っていたのも、わかる気がする。
若い女の子に、とても人気だとか。
どうやら本人は気づいていないところが、どこか姉とそっくりなように思える。
「そうか……愛されてるな、胡蝶」
ここで指す胡蝶は、姉さん。
私は堪らなくなって、ついに思うことを打ち明けた。
「あの……私も、胡蝶なんです。区別が付くように、していただけませんか」
ぱち、と目が合う。
その目が面白そうに深められて、Aさんは「そうじゃねぇか、ごめんな」と笑った。
トク……と心臓が跳ねる。
……何故?
「じゃあ……えっと、名前……」
「私の、ですか?」
「姉の方を呼ぶ気には、なんか……な。長年、胡蝶で通してきたし」
「だから、」と、湯飲みをコトリと置いて、こちらを見つめる。
痛いくらいに、真っ直ぐな瞳。
それから、目をそらせずに。
「しのぶ、です」
たったその一文字を口に出す。
「そうだ、しのぶ、だったな。…………しのぶ」
柔らかい、声色。
「これで大丈夫だな」……そう笑って使い終わった湯飲みを片付けようとするAさん。
客にやらせてはいけない、と思うより先に。
私は。
「っ…………!」
これは、何か不味いと……予感していた。
初めての、奇妙な胸の痛み……それから。
じわ……と、熱くなる耳、顔_____
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天霧(プロフ) - うっひょうぅぅぅう!しのぶさん最高ですよ! (2021年11月5日 20時) (レス) id: 29b58b93c0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆいな(プロフ) - しのぶちゃんかわいいですよね、、!更新待ってます! (2020年8月12日 22時) (レス) id: ec54d11116 (このIDを非表示/違反報告)
あやめ(プロフ) - めちゃくちゃこの作品好みです!更新お願いします!!!これからもがんばってください!! (2020年5月24日 21時) (レス) id: 2cb5bf810d (このIDを非表示/違反報告)
イツキ - 二人のイチャイチャ楽しみです! (2020年5月10日 12時) (レス) id: a90c8d5aa0 (このIDを非表示/違反報告)
剣華 - いつもニヤニヤしながら見させてもらってます。ほんと好きです!次の更新も楽しみにしてます!がんばってください。 (2020年5月7日 12時) (レス) id: e2d859c4ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たつき | 作成日時:2020年3月30日 7時