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降谷side
『
そう命令してきた傲慢不遜なクソ野郎は、課長よりも階級が二つほど上の男だった。この男が課長を通さずに俺を呼び出したのは明白で、課長には通せないやましい事情がある事もまた、明らかだった。
そろそろ“降谷零”の消費期限が尽きようとしている事くらい、自分でも分かっていた。
潜入捜査を経て俺が手に入れた情報は、それこそ目の前の男を一日で社会的死に追いやる様なものから、小国一つ滅亡させる様なものまで大小様々だ。
今は従順な態度を取っていてもいつ牙を剥くか分からない
それでも、そんな下らない陰謀がヒロを死に追いやった事を俺は既に掴んでいた。
大切な人は皆、俺を置いていってしまった。
自分で言うのも何だけど、もう十分頑張った様に思う。
なあ、もういいだろ、そっちに行っても。
とうの昔に鬼籍に入った友人達に問いかけても答えが返ってくる訳がない。
疲れていた。どうしようもなく。組織は壊滅し、ガムシャラに走らなくても許される様になった。でもそれは、俺にとって失い続けた穴だらけの人生を振り返る事と同義だ。
ここまでだな、と隠しきれていないほくそ笑みを浮かべるクソ野郎に向き合う。権力闘争に明け暮れるこの男がとっくの昔に忘れたであろう敬礼を、これ以上なく綺麗に掲げてやった。
『降谷警視正、謹んで任務を拝命致します』
この世への未練は既にない。共に日本の為に奔走した仲間の元に行けるのなら、それは自分にとってこれ以上ない幸せだ。
でも、一つだけ。
阿木を名前で呼ぶ事なく死ぬのは、どうにも名残惜しい。
阿木に思いを伝えるつもりはなかった。自分が大切に思った人間は皆死んでしまう。それでも名前を呼びたくて悩みに悩んだ結果、『おかしくなったフリをして名前を呼びまくろう作戦』を思いついた。
自分でも阿呆だなと思う。捨て身すぎて、我に返ったら羞恥に悶えるに違いない。
だが、どうせ死ぬなら、好きな奴の名前の一つくらい呼んでから死にたい。
唇に触れる。
阿木の額はツルリとしていたが、余り手入れをしていないのか乾燥していた。
額にキスをした。
その思い出だけで俺は、満足だ。
「バーボン」
ブランデーに名を呼ばれ、俺は“バーボン”の顔で微笑んだ。
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エリンギ(プロフ) - おかずさん» コメントありがとうございます!ご愛読本当に感謝です! (2022年9月20日 20時) (レス) id: d64584d3be (このIDを非表示/違反報告)
おかず(プロフ) - 完結おめでとうございます!すっごく好きな作品だったので完結は寂しいですが、読み直したりしてまた楽しみたいと思います。素敵な作品をありがとうございました! (2022年9月20日 19時) (レス) @page48 id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
エリンギ(プロフ) - ぴょんぴょんさん» ご協力感謝します!お陰様で赤星になりました。 (2022年9月14日 22時) (レス) id: d64584d3be (このIDを非表示/違反報告)
ぴょんぴょん(プロフ) - すごい面白いです!こういうぶっ飛んだ降谷さんも大好きです!赤星ってどのくらいの投票でなるんでしょうかね。とりあえず周りの友達に宣伝してみます! (2022年9月14日 22時) (レス) id: 78f9c276ca (このIDを非表示/違反報告)
エリンギ(プロフ) - 猫モドキさん» ありがとうございます笑 (2022年9月9日 17時) (レス) id: f698343d68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エリンギ | 作成日時:2022年9月1日 10時