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「……はーい、どうぞ」
一呼吸置いて返ってきた返事は、当たり前だけどセンラ先生の声。
息を呑む。どうしよう、また緊張してきた。今すぐに他の人にこれを押し付けて帰りたい。
でも……先生と、話してみたい。
「失礼します……し、資料を渡すよう頼まれて来ました」
「あぁ、ごくろうさん」
カラリと開けたドアの先には、椅子にゆったりと腰を掛けて何かを読んでいる先生。私の手元にある資料をちらりと見て、そこに置いといて?と指で机を指す。
指された机は散らかり放題で。申し訳程度に物をどかして、資料をぽんと置く。
そして、先生の方をちらりと見るも、先生は読書に夢中で。
(……うーん、期待はしてなかったけど……ここまで喋れないとは)
まぁ、先生を間近で見れただけでいいや。帰ろう、と扉の方にくるりと体を向け、外に出ようとすると。
「ねえねえ、ちょっとだけ話していかへん?」
「……へ?」
パタン、と読んでいた分厚い本か何かを閉じて、こちらを見てにこりと笑った先生に、私は思わず間抜けな声を出す。
ほら、ここ座って?と言われ、言われるがままに座ったはいいものの。
(……近い)
大丈夫かな、私。顔赤くなってないかな。
ドキドキを必死に抑えようと、先生の向こう側に置いてある積み重ねられた本を見つめる。だけど、先生はわざとかのように私の視界の中にひょいと入ってきて。
顔を覗き込まれ、ガタガタッ!と大きな音を立てて後ずさると、先生はまた笑った。
でも……さっきのふわふわした笑顔とは違う、どこか妖艶な笑み。
聞きたいことあるんやけどさ、と話を切り出した先生に私は首を傾げる。はい、と返事をすれば、先生は笑顔のまま。
「君、俺のことよく見てる子でしょ」
予想外だったその質問に、一瞬、心臓が止まった気がした。
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