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──先生には、一目惚れだった。貴方の姿を初めて見たとき、私の胸は高鳴ったの。
最初は遠くから眺めているだけだった。目線の先で笑っている先生を見るだけで、私は幸せだった。
そんなある日、私と先生が今の関係になる出来事が訪れる。
「ちょっと、私はこういうの……」
「いーからいーから、つけてみて!」
ある日の放課後、教室で友達におふざけ半分で口紅をつけられた。
あんまりそういうものには縁遠かったし、何だか擽ったくて。口紅を塗った自分の顔を鏡で見ると、別人になったみたいだった。
(……大人、みたい)
いつもは童顔で子供っぽい顔が、口紅をつけたら一気に大人びた雰囲気になっていて。……大人な先生に、少し近づけたような気がした。
友達も“似合ってるよ”と言ってくれて。私は照れながらも微笑んだ。
その時、教室のドアから担任の先生がひょっこりと顔を出した。
「あ、ちょうど良かった!2人でこの資料 化学準備室に運んでくれない?」
ダンボール1箱分の資料を抱えた先生が忙しそうにしているのを見て、私は“はい、分かりました”とそれを引き受ける。
じゃあ持っていこうか、と友達に声を掛けると、彼女はにやりと笑って。
「化学準備室ってことは、センラ先生じゃん!A一人で行ってきなよ!」
「……えっ」
たしかにそうだ、この資料はきっと化学教師である先生の元に持っていくものなのだろう。
いや、でも……化学準備室ってことは、職員室なんかとは違って先生と二人きりになるってこと。いつも遠くから眺めているだけ私にはハードルが高すぎる。
(……む、無理だよ……無理なのに……)
なんで私は一人で化学準備室の前に立ってるの?
結局、友達が勝手に一人で帰ったせいで一人で来ざるを得なかっただけだけれども。資料を届けに来ただけなのに、どうして私の鼓動はこんなに早まってるの。
落ち着け、落ち着け。……資料を渡すだけだよ。
未だに早く鳴っている心音を深呼吸で落ち着かせて、私は震える手で扉を叩いた。
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