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「あ...帰りましょうか」
彼がスルンと視線を外し、歩き出した。
私も同じように、歩き出す。
道中は定番の世間話。昨日観たテレビ番組、天気の事、季節の事。
政治やスポーツの話題は出さない方が賢明。
「そう言えば、二宮さんっておいくつなんですか？」
「34」
「あ」
「思ってたよりオッサンだった？」
確かに思ってたより大人だったってのもあるけど。
「私、同い年」
「え？そうなの？五十嵐さんも思ってたより...あ、ごめん何でも無い」
「オバサン、ですか？」
「そうは言ってないでしょ。オレが思ってたよりオトナだったなーって」
「じゃあ何でさっき謝ったんですか」
「え？なんとなく。アハッ、ごめんごめん！何かもう手遅れ感すげぇ」
やっぱり少年のように、彼は笑った。
ただ同い年と言うのは、凄い。
一気に共通の話題が増える。
高校生の頃、あの歌手が流行ってたよね！とか、あのドラマ観てた？とか、結局世間話なんだけど幅が広がる。
「二宮さん、時々ベランダで鼻唄歌ってますよね」
「あ、うるさかった？」
「ううん、うるさいんじゃなくて『懐かしいなー』って思いながら聴いてました」
「アハ、あー、なるほど」
「二宮さんが歌ってるの聴いて、実家からその歌手のCD送って貰った事もあります。ちゃんと聴きたくて」
「マジで！オレの歌声じゃ満足して貰えなかったかー！」
「いや、別にそーゆー訳じゃ無いんだけど...」って私が笑った瞬間、彼が立ち止まりまた私をじぃっと見た。
「あ...ごめんなさい、失礼でしたよね...」
「......」
「あのー...」
ビー玉みたいな目が、私を映す。
「オレ、五十嵐さんと会った事ある？」
「え？」
「...んーん、何でも無い」
彼はヘラっと笑って、また歩き出した。
夜風に彼の柔らかそうな髪が揺れる。
エレベーターに乗り込むと、彼が私達の住む7階のボタンを押してくれる。
先に出るのは、部屋が奥にある私。
お互い、玄関に鍵を挿し込みながら挨拶を交わす。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「今度から鼻唄控えるわ」
「え！全然大丈夫なんでどんどん歌って下さい！」
「どんどん？」
「じゃんじゃん歌って下さい！」
「じゃんじゃん！」
フハッ、って空気が抜けたみたいな笑い方。
「じゃ、ボリュームだけ気を付けよっかな」
そう言って、彼は「またね」と自分の家の中へ入って行った。
本当は、彼の歌声に惹かれていた。
毎晩、ベランダに出て「今日は歌うかな？」って思って待ってしまう程に。
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めぐお(プロフ) - 久しぶりに読んだイロコイ。やっぱり大好きなお話です。残してくれてありがとうございます。 (2022年9月16日 16時) (
レス) @page47 id: 17cbbe6ec7 (このIDを非表示/違反報告)
莉依(プロフ) - 何度読んでも、やっぱりイロコイのお話は良い。大好き。 (2019年1月8日 0時) (レス) id: c571097cf8 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - 結城ちゃんがビール飲めるようになってることに感動です( ；∀；) (2018年8月24日 15時) (レス) id: f393ece0e8 (このIDを非表示/違反報告)
mama(プロフ) - やーっと読むことができました。先生の『行間を読みなさい』が久々に聞けてドキドキしちゃいました。それぞれの恋のはじまりが丁寧に伝わりました。もう、恋をする年齢ではないけれど、お話の中では恋をしていきたいな。レイさん、いつもありがとうございます。 (2018年8月14日 6時) (レス) id: dc084211e8 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - イロコイ…続きが拝読出来て感動♪それと大野さんの「ともちゃんが猫を拾ったあの時、おれは恋を拾った」に心臓がドキューンと殺られたｗｗｗ (2018年8月8日 21時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2018年5月21日 18時
