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「こんばんは」
「あ。こんばんは」
その日彼と会ったのは、何でも無い帰り道の途中だった。
彼はちょっと息を切らせてる。
「五十嵐さんの後姿見えたから」
「え？」
「ちょっと走っちゃった」
ハァっと息を吐き出し、彼は緩く微笑んだ。
何故か、目を逸らしてしまう。
いつもの世間話をしながらの帰り道。
私に友達からLINEが来てスマホを出して返してる時、彼は小さな声で鼻唄を歌い始めた。
「あ...それ」
「知ってる？」
「凄く好きだった」
「マジで？オレも好き」
20年以上前、あるバンドが出したアルバムの中の一曲。
「小学生の頃から好きでさ、歌詞の意味も分かんないくせに」
「私も！」
「無邪気に大声で歌ってたからね。今思うと、親は恥ずかしかったかも」
「結構キワドイ歌詞だもんね」
「歌い出しからそこそこ過激だよな」
「私、好き過ぎて歌が上手かった幼馴染みにいつも歌ってもら......」
突然、あの頃の記憶が蘇った。
そう言えばあの歌が上手かった幼馴染みは、とても綺麗な目をしていた。
「...でもその子、中学に上がる時に引っ越しちゃって...」
私を見てるビー玉が、少しだけ揺れた気がした。
「あのさ。五十嵐さんの名前って、A...だったりする...？」
全身が熱くなった。
震える手を自分の手でギュウっと押さえながら頷くと、彼は「そっか...だからか」と困ったように笑う。
「だからオレ、会った事ある様な気がしてたんだ」
彼が少年のように見えてたのは、私が彼の『少年の頃』を知ってたからなんだ。
「......カズくん...？」
何年かぶりに口に出した名前は、自分が思ってたよりもずっと胸を締め付ける。
「やっぱAだったんだ」
「カズくん、なの？」
「うん。『カズくん』ですよ」
「うそ...」
幼稚園から小6までずーっと一緒だった。
中学になる時、カズくんが遠くに引っ越すんだと聞いて大袈裟じゃ無く一週間は泣き通しだった。
私の初恋だった。
「お久し振り」
カズくんはあの頃より大人になった表情で、私の頭にポンと手を乗せる。
「元気だった？」
「...うん」
「楽しく生きてた？」
「...それなりに...」
「今、幸せ？」
「......」
「彼氏いんの？」
「...5年も付き合ってた彼と半年前に別れた...」
「じゃあ、運命かな？」
「...えっ」
キュっと上がる、口角。
「Aの人生は34歳でオレとまた出会う事に決まってたから、彼氏と別れたんだよ。きっと」
そのビー玉は瞬間、甘い色に変わる。
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めぐお(プロフ) - 久しぶりに読んだイロコイ。やっぱり大好きなお話です。残してくれてありがとうございます。 (2022年9月16日 16時) (
レス) @page47 id: 17cbbe6ec7 (このIDを非表示/違反報告)
莉依(プロフ) - 何度読んでも、やっぱりイロコイのお話は良い。大好き。 (2019年1月8日 0時) (レス) id: c571097cf8 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - 結城ちゃんがビール飲めるようになってることに感動です( ；∀；) (2018年8月24日 15時) (レス) id: f393ece0e8 (このIDを非表示/違反報告)
mama(プロフ) - やーっと読むことができました。先生の『行間を読みなさい』が久々に聞けてドキドキしちゃいました。それぞれの恋のはじまりが丁寧に伝わりました。もう、恋をする年齢ではないけれど、お話の中では恋をしていきたいな。レイさん、いつもありがとうございます。 (2018年8月14日 6時) (レス) id: dc084211e8 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - イロコイ…続きが拝読出来て感動♪それと大野さんの「ともちゃんが猫を拾ったあの時、おれは恋を拾った」に心臓がドキューンと殺られたｗｗｗ (2018年8月8日 21時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2018年5月21日 18時
