●免罪符【N】 ページ17
何も変わらない、つまらない毎日だった。
上司の軽いセクハラ発言や、面倒な仕事を押し付けてくる先輩。
つまらないなぁ…と思いながら私は毎日、家と会社を往復していた。
大人になるとはそういう事。みんな、そんな毎日を送ってるんだ。
そう、自分に言い聞かせながら。
だけど、それは本当に突然訪れた。
つまらない毎日が、少しだけつまらなくなくなった。
それは、月曜日と木曜日にやって来る。
週に二回もやって来る。
「こんちわーっす」
振り返ると、オフィスの出入口に立ってるその人。
オレンジ色のツナギを着て、手にはA4サイズの茶封筒。
取引先の書類を届けてくれるバイク便の担当者が、つい1ヶ月前に変わった。
それまではちょっと厳つい、でもいつも元気で明るい『THE良いあんちゃん』って感じの人だった。
それが、全然雰囲気の違うお兄さんに変わった。
私は立ち上がり、彼の元まで歩く。
早足にならないように、出来るだけ落ち着いて。
「ご苦労さまです」
「サイン、お願いしまーす」
「はい」
伝票にサインしていると、彼が「やっぱ涼しいっすねー」と呟く。
チラッと視線を上げると、掌をパタパタと団扇のようにしてる彼と目が合った。
「あーいや、外ね。めちゃくちゃジメジメなんっすよ」
「あ、そっか。梅雨ですもんね」
「雨よりはマシなんすけど、湿度高い日も辛いっす」
汗が流れる白い首。
「…あ！ちょっと待ってて貰えますか？」
「ん？」
「すぐ戻りますから！」
私は走ってオフィスの端に置いてあるウォーターサーバーまで行き、水を入れて戻った。
「これ！良かったら」
「え？いいの？」
「水分補給は大切ですから」
「うわ、ありがたい！いただきまーす」
ごくごくと男っぽい喉仏が上下する。
汗で毛先が濡れてる髪は、黒くて柔らかそうで女の子っぽいのに。
「ごちそうさまでした」
紙コップを彼から受け取る。
綺麗に飲み干してる。
「ありがと、五十嵐ちゃん」
「え！？」
「それ。名前でしょ？」
「あ...」
彼は私が首から下げてるネームホルダーを指さして、ンフッと笑った。
「俺、二宮。これね」
そして自分の胸ポケットに挟んである名札を指さす。
「二宮さん...」
「じゃ、失礼しまーす！」
二宮さんはクルッと背中を向けて、走って行った。
ただ見てるだけで良くて、運が良かったら彼の応対が出来る。
それだけだった彼の存在が、それだけだったはずの彼の存在が、変わった。
というか...気付いてしまったんだ。
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めぐお(プロフ) - 久しぶりに読んだイロコイ。やっぱり大好きなお話です。残してくれてありがとうございます。 (2022年9月16日 16時) (
レス) @page47 id: 17cbbe6ec7 (このIDを非表示/違反報告)
莉依(プロフ) - 何度読んでも、やっぱりイロコイのお話は良い。大好き。 (2019年1月8日 0時) (レス) id: c571097cf8 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - 結城ちゃんがビール飲めるようになってることに感動です( ；∀；) (2018年8月24日 15時) (レス) id: f393ece0e8 (このIDを非表示/違反報告)
mama(プロフ) - やーっと読むことができました。先生の『行間を読みなさい』が久々に聞けてドキドキしちゃいました。それぞれの恋のはじまりが丁寧に伝わりました。もう、恋をする年齢ではないけれど、お話の中では恋をしていきたいな。レイさん、いつもありがとうございます。 (2018年8月14日 6時) (レス) id: dc084211e8 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - イロコイ…続きが拝読出来て感動♪それと大野さんの「ともちゃんが猫を拾ったあの時、おれは恋を拾った」に心臓がドキューンと殺られたｗｗｗ (2018年8月8日 21時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2018年5月21日 18時
