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獣は夜間に活発になる。
それは正しい。
だからほぼ素っ裸な人間が夜の森に槍1本ナイフ1本で突撃するなんて、かなり無茶苦茶である。
「でも私は元々闇に紛れる職業なんでね!!!!」
私はめっぽう夜目が利く。暗闇に潜む生き物の息遣いや地面の揺れ、空気の流れで確実に相手を捉えその頭に鉛をぶち込むことが出来る。
勘のいい人はわかっていると思うが、私は3700年前殺し屋をしていた。基本的には外国からのスパイ弾圧、密輸業者の排除、そして権力者同士の争いへの加担。苦しめたい訳では無いため、即殺す。音もなくまるで自然の摂理かのように血を降らして去っていく。去った後の土地には何の痕跡も無いくせして、鉄の臭いだけがそこに漂っている。
その様子から私は
私は悪事を行う人間をたくさん葬ってきた。
相手にどんな事情があろうとも心臓を止めた。赦されることは一生ないだろう。
「神様がやり直していいって、チャンスくれたんだから」
今度は誰かを守るためにこの力を使おう。
私は悪人じゃないのだ。数え切れないほどの血の雨を降らせてきた限りなく黒に近いグレーな存在だが、私の願いは平和な時を守りたい、それだけだった。
平和の代償として失ったものは多かった。
中でも感情の欠落は1番堪えた。何をしても愉しく思えず、料理も味がしなくなった。眠るのも怖くなった。街を歩く事も億劫になり、人と話す時は全て疑わなければ気がすまなくなった。私を知っている人間は絶対に関わってこない。来る場合は恨みを持たれている時だけ。
「……ほんとに、遠慮無かったなあ」
だから、千空くんがタメで遠慮なしに話してきた時、結構嬉しかった。
『俺は絶対科学で解き明かす。』
彼の迷いの無い目を見て、ゾクリと背筋が震えた。久々の感覚だった。気分が高揚していくのが分かった。嗚呼、この子はやる子だと、全細胞が私に訴えかけてきた。
「大人の私は千空くんを手助けしてあげないとね。」
寝ていたうさぎや鹿、襲いかかってきた虎を引き摺る。流石に重たいので分割して持って帰ろう。
皮も色々手に入ったから、服でも作ろう。人より裸体に関心がいかないとはいえ、このままでは風邪をひいてしまう。寝床のパワーアップや怪我をした際の手当用品としても皮は使える。
「さて、帰りますか!」
育ち盛りには、たらふく食べさせてあげるぞい。
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作者名:翔月 | 作成日時:2023年10月28日 0時