スパイダー【ars M.A】 (ページ16)

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ウページ16

「カズくん...」

ドアを開けると、「だからノック...って、どうした？」ってカズくんは訝しげな顔をした。
そんなカズくんの隣に座って、俺はポケットに手を突っ込んでその中を探る。

「今日レッスンだったんでしょ？」
「うん...」
「だったら何でそんな顔してんのよ」

そんな顔...俺、どんな顔してんだろ...

ポケットの中に突っ込んでた手を出すと、それを見たカズくんが「は？」って言った。

「ちょっとお前、人の部屋で何するつもり！」
「何って、見て分からないの？」
「分かるわ！分かるけどあえて訊いてんだろが！」
「うるさいなぁ...」

俺は、家でくすねて来たとーちゃんがストックしてる煙草を口に咥えて100円ライターで火をつけると、一気に息を吸い込んだ。

「ゲホゲホッ！ゲホッ...ウェッ...」
「だーっ！何やってんだよ、マジで！」

噎せ過ぎて吐きそうになってる俺から、カズくんが煙草を取り上げる。
まだ口の中に煙が残ってて、ハァーッて出し切っても何か気持ち悪い。

「こーゆーコトするなら、自分の部屋でしろや！巻き込むな！」
「カズくんだって吸ってるでしょ！」
「シーッ！黙れ！声でかいわ！」
「返して！」

まだ先端から煙が昇ってる煙草を取り返して、もう1度吸い込む。

「ゲェッホ！ケホッ...ケホッ...」
「もうやめろって！何なの、マジで」

また取り上げられる。
立ち上がったカズくんが、隠し持ってる灰皿を出して火を消してしまった。

「もう...本当に何なのよ」
「.....」
「部屋に臭い残ったら母ちゃんにバレんだろ」
「.....」
「オレだってベランダ出て吸って.....おい、聞いてんの？」
「...煙草くらい吸えなきゃ、俺...」

カズくんが何も言わずに俺の隣に戻って来て座った。
大きなため息。

「煙草吸ってる人が好きとか言われたの？」
「...煙草吸ってる人だったの...」
「センセーが？」
「んーん、先生の彼氏が...」
「彼氏.....って、うっわー...マジ？」
「.....マジ...」

泣きたい。
マジなんだもん。
先生、彼氏居るんだもん。泣きたい。

「また大人の男だよ...まただよ！また俺、大人の男に負けたんだよ！」
「ちょっと落ち着けって」
「落ち着ける！？彼氏だよ！？不戦敗じゃん、自棄煙草だよ！」
「待て待て待て！」
「吸わせてよ！」

もう一度煙草を咥えると、パーン！と叩き落とされた。
さすがにムカッとして睨むと、キッと睨み返された。

「不戦敗？本気でそー思ってんの？」

カズくんが、言う。