KING【ars M.A】 (ページ21)

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秘書室に戻った私を、風間さんが迎えてくれる。

「風見さん」
「…はい」
「大丈夫だよ」
「フフッ、何がですか？」

私が笑うと、風間さんも笑った。

「『大丈夫だよ』って言ってあげたくなる顔してるから」
「それどんな顔ですか」
「今の風見さんの顔」
「...何かありがとうございます。私、風間さんが居なかったらぶっ倒れてたかもしれません」

ハァ、と溜息を吐き出すと

「それはそれは。ぶっ倒れなくて良かった」

風間さんは、優しく言ってくれる。

「風間さんはお地蔵様みたいです」
「待ってそれ、褒めてる？」
「ベタ褒めです」
「なら良いや」

ちょっと拝んでみた。
こら！って殴る真似をされた。

「風見さん」
「はい」
「きっと大丈夫だよ」

何の根拠も無くたって、『大丈夫』って言葉は偉大だ。
口を開けば溜息しか出て来なさそうだったのに、私、今笑えてる。

その日の午後。

社長は、スタッフ達と企画会議。

「つっまんないね」

バサーッと企画書を投げて静まり返った彼らに「何とか言えば？」と言い放つ。
冷たい目に、冷たい声。

「...社長！このゲームの特徴はですね」
「うん？」

だけど、自信ありげにスタッフの一人が立ち上がり話し始めると、楽しそうに腕を組んで
そして相槌や質問を入れる事は無く、スタッフの話を最後まで聞く。

「なるほどね」
「いかがでしょうか...」

そこで初めて質問して、話を進めて

「このまんまじゃ弱いから、もうちょい捻って。捻り出して。キミなら出せるよね？」

笑顔。
同性だって虜にしてしまうその笑顔に、男性スタッフも嬉しそう。

AIBER GAMEを統べる王様の武器は、今日も絶好調だ。

・

24日。

指定された時間に、社長のマンションへ行く。

暫くすると、社長が出て来た。
夕方だから、いつもみたいに眠そうじゃない。

サングラスを掛けた彼は、綺麗なセットアップを着てる。

私が車から出ようとしたら手で制されて、社長は自分で後部座席に座った。

「ごめんね、お休みの日に」
「いえ」
「クリスマスイブだよ？本当に予定無かった？」
「...残念ながら」
「それはホント、残念だね」

タハッ、て彼が笑う。
ズキンと心が痛む。

「あ、もしもし？ユキちゃん？もう着いた？」

え？と思うと、社長は誰かとスマホで話してる。

「フフッ、うん。すぐ迎えに行くから、待っててね」

ズキンズキン。
痛い。

「...社長、デートなんですね」
「うん。クリスマスイブだからね」

胸が痛い。