KING【ars M.A】 (ページ14)

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はページ14

「そんな！社長に運転なんかさせられません！」

キーを取り戻そうとするけど、手を高く挙げられて届かない。
ジャンプしてみる。
一緒にジャンプされて、やっぱり届かない。

「じゃあ、言い方変える」
「...え？」
「俺、ホントは運転大好きなの。だから運転したい」
「......」
「運転させろ」

その口角が上がる。

「命令だ！」

ちょっとフザけた言い方。
なのに、どうしてだろう、ずっごく胸がキュウ...となってしまって。
私、ドMだったのだろうか...いや、そうでも無かったはずなんだけど...と自問自答。

社長はもう勝手に運転席に乗り込んでいて、きっともう私が何を言ってもどうしようも無いだろうなぁと諦めて助手席に乗る。

エンジンをかけて、首をコキコキと鳴らした社長が

助手席の方に腕を伸ばして、「ちょっと失礼」と私の前にあるダッシュボードを開けた。

当然だけど、そんなコトされたら身体の距離がグンと近付いてまたドキっとして、小さく深呼吸。

そんな私なんてお構いなしに、社長はダッシュボードから何かを出してる。

「...どうしたんですか？」
「ん？運転の時は必須なの」

運転席に身体を戻した社長の顔には、黒縁の眼鏡。

「普段の生活には何の支障も無いんだけどね」
「そうだったんですか」
「そうだったんです」

顔を見合わせて、クスクス笑い合う。

...うわ、どうしよう。何か今、すっごく幸せだとか思っちゃったんだけど...。

「行くよ？」
「あっ...はい！」

慌ててシートベルトをする。

運転する社長の横顔は、きっと見たらいけない。
だって、どう考えても格好良いに決まってるんだから。目の毒。

チラチラ目の端に入る手だけでも、もう男前が漏れ出しちゃってるのに。

「Aちゃん」
「はい」
「寄り道したいんだけど、良い？」
「寄り道ですか？」
「うん」

社長は『大好き』だと言うだけあって、スムーズに車を運転する。

「社長、私よりずっと運転上手ですね」
「そう？」
「私の運転、不安ですよね？」
「えー？フフッ、別にAちゃんに運転の技術は求めてないからなぁ」
「え？」

え？と社長も言って、笑ってる。

暗い車内。
街明かりに照らされる、その横顔。

あぁもう、見ちゃったよ...。

見たらいけないって思ってたのに。
バカだ、私。

『運転手と雇用主の恋』ってのは、結局『身分違いの恋』なんだ。

ゲームでは物凄く定番のシチュエーションだけど、実際は決して実らない現実味の無いシチュエーション。