Laundry【ars K.N】 (ページ7)

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そう、思ってたのに。

「あ、口笛兄さん」
「おぉ。また会ったな」

翌週、水曜日の夜。

仕事の後に洗濯物を抱えてランドリーに行くと、パイプ椅子に座ってスマホを見てたお兄さんが顔を上げてチラっと私を見た。

「気が合うね」

また言われたその言葉に、ちょっとだけドキっとしちゃって

「アハー」って、妙な笑いが出てしまった。

「まぁ、うちに洗濯機の無い人間がコインランドリーに来るサイクルなんて同じか」

なのにお兄さんは、すぐに興味が無くなったようにスマホに目を戻す。

指がせわしなく動いて、時々何か考えるようにジっと画面を見詰めて、口元がニヤリと綻ぶ。

何がそんなに面白いんだか...。

変にその空気がつまんなく感じて、バサバサと雑に洗濯機へと洗濯物を放り込んだ。

出来上がるまで30分。

今日もお兄さんと対角線になるようにパイプ椅子に座る。

私もスマホを出してSNSをチェック。
リア充な友人達の投稿に『いいね！』

私のリアルは洗濯機壊れてコインランドリー通い。

「...ハァ...」

スマホをテーブルに置くと「また溜め息」って、お兄さんが呟いた。

「え？」
「前もハァァ...ってでっかい溜め息吐いてたなーと思って」
「あ...そう、だったかな...ごめんなさい」
「別に責めてる訳じゃねぇよ。嫌なコトあったんだろうなーって思っただけ」
「......」

スマホから目を離さないのに、ちゃんと会話してくれる。

「どったの？人生に疲れてんの？」
「疲れてるのかなぁ...」
「自分のコトも分かんないの？」
「お兄さんはゲームが好きなんですか？」
「フハッ！何だよ、無理問答？」

ずっとゲームは続けてる様子なのに、上の空な返事も無い。

「ってゆーかさ」
「はい」
「『口笛兄さん』って何？」
「えっ！？」

何故そのあだ名を知ってる！？

「さっき、ここに入って来た時『口笛兄さん』ってオレ見て言ったろ」
「......言って...ましたか」
「言ってました」
「言ってましたかー...重ね重ね、スミマセン」

テーブルにオデコが付く程、頭を下げる。

「で？『口笛兄さん』ってのはオレのコト？」
「...はい。口笛が上手いなぁ...と思って」
「口笛？」

不思議そうにそう言った彼は、唇をすぼめて綺麗な音を鳴らした。

「それ！凄い！」
「誰でも出来るよ、練習すればアナタにも出来るよ？」
「私も！？隙間風みたいな音しか出ないのに！？」

ヒューヒューと息を吹くと

「教えてやるよ」と、彼は私の向かい側の椅子に移動した。