Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ6)

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286.冷酷。ページ6

雅紀くんが一軒の喫茶店に入って行く。

玉屋とは違うタイプのアンティークなお店。
街並みに似合う、上品で綺麗な店構え。

可愛いお店だなぁ...なんてちょっと浮かれて店内を見渡してた私は、一瞬で背筋が冷えた。

店の奥に座る、細い指でティーカップを持ち上げて口元に持っていく人。
緩く巻いた長い髪に、白い肌。

立ち止まってしまった私を見て微笑んだ雅紀くんが、スタスタと彼女の元へと歩いて行く。

紅茶を飲んでいたその人は、雅紀くんを見上げて零れるように笑った。

胸に、黒い靄が広がる。

彼が彼女に何か話すと、彼女は私を見てその笑顔をペリっと剥がした。

「Aちゃん、おいで？」

振り返った雅紀くんに手招きされても、足が進まない。
小さく頷いた彼がまた私の方まで戻って来て手を取ったと思ったら、その人の前まで連れて行かれた。

「伊織さん、呼び出してごめんね？」

雅紀くんが彼女と向かい合うようにソファに座る。
手を繋がれたまんまの私も、引っ張られるように隣に座る。

「...まー君ひとりだと思った」

目を伏せて微笑んだ伊織さんに、雅紀くんは「俺が今更、伊織さんと二人っきりになる訳ないじゃない」と、笑った。

ゾクリとした。
こんなにあったかい声の持ち主なのに、その言葉にはあまりにも熱が無かったから。

「伊織さん、どうしてあんな事したの？」
「あんな事って？」
「分かんない？Aちゃんに、俺を返せとか言ったんでしょ？」

伊織さんが、私を見る。
告げ口した訳じゃ無いし、もし私から言ったんだとしても別に悪い事では無いはずなんだけど、居心地悪くて視線を逸らす。

「どうして、そんな嘘つくの？」
「嘘なんかじゃないよ。私、本当にまだまー君を...」
「腹いせなんでしょ？」

その言葉に、私だけじゃなく伊織さんも目を開いた。

「何で俺が伊織さんと連絡とれたと思う？」
「...それは、まー君がまだ私の連絡先を残しててくれたからで...」
「消したよ、あの時。旦那さんや偉い人達に伊織さんに関するデータは『全て消せ』って言われて俺、みんなの目の前で消したじゃない。見てたでしょ？伊織さんも」

自嘲するような笑い方に、その時雅紀くんがどんな状況に置かれてたのか簡単に想像できて苦しくなった。

「でもね、俺が連絡を絶ったのは伊織さんだけだから」
「......え？」
「他のコネクションまで絶つよーなバカじゃないよ。見くびらないで？」

その横顔は、綺麗で、...冷たい。