Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ5)

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285.午前中は。ページ5

窓の外、人気のラーメン屋さんに行列が出来てる。
そっか。まだお昼ご飯の時間帯だもんなぁ...。

「あ」

私の声に、雅紀くんが前を向いたまま「ん？」と応えた。

「今日って、診察あったよね？」
「うん、午前だけね」
「大丈夫...だったの？」
「たまたま11時以降に予約も入ってなくて。飛込みも今日は断ってた」

雅紀くんが飛込みの患者さんを断るなんて珍しい。
...それは、私と話す為に？

黙った私の気配を察したのか、彼が「大丈夫だよ」って話し始める。

「すぐに診なきゃいけない患者さんじゃなかったから」
「そうなの？」
「もちろん、今すぐどうにかしなきゃ！って患者さんなら、待ち合わせ遅らせて貰うつもりだったけど。初めてうちに来た時のAちゃんみたいなね？」

雅紀くんが、フフっと笑う。
初めて雅紀くんに『歯科医』と『患者』として出会った時の事を思い出した。

その時は、こんな風に雅紀くんの隣に居る未来なんて想像すらしてなかった。

「待ち合わせ、雅紀くんちでも良かったのに」
「え？」
「だって、そしたら私を玉屋に待たせてるとか気にせずお仕事もできたでしょ？」
「んー...まぁ、そうなんだけど」

どうして家で話さなかったのか、やっぱり気になってたから何となく会話に入れてみると

雅紀くんは、少し照れ臭そうに口の端を上げる。

「家だと、仲直り出来たらもうそのまま外に出たくなくなりそうだなー...と思ったから」
「そうなの？」
「だってやっぱほら、イチャイチャしたくなっちゃうじゃん！」

もう！と笑いながら雅紀くんの太腿を叩くと、彼も「男の子だから仕方無いの！」って笑って

でもすぐに、ンンッと咳払いをしてちょっと真面目な声。

「言ったでしょ？Aちゃんを連れて行きたい所があるって」
「...うん」
「それが一番の目的だから」
「...ねぇ、それどこ...」
「もう着くよ」

車は、住宅街のコインパーキングに停められ雅紀くんに連れられた私は全然知らない町を歩く。

「何か上品な町だね」

両サイドに綺麗な家が並ぶ、キチンと整備された遊歩道が続く坂道。
キョロキョロしながら歩いてると、雅紀くんがポケットからスマホを出して何かをチェックした。

「Aちゃん」
「うん？」
「少しだけイヤな想いをさせるかもしんないけど」
「......え？」
「中途半端には、しないから」

玉屋でも聞いた台詞を、雅紀くんが言う。

「なんにも怖がんないで良いから」

彼の手が、頭の上に柔らかく触れた。