Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ40)

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大雨だった。

朝は晴れてたんだ。
だからオレは、ちょっと無理して買った良いスーツを着ていたのに。

あともう少しで家に帰れるって時に、大雨に降られた。

一瞬で頭の先から、これまた無理して買った高い靴の先までズブ濡れになった。

「くっそ...」

ドアの前でジャケットを脱いでバサッバサと雨粒を落とす。
こんな事じゃどうにもなんない位に濡れてて、舌打ち。

「カズくん？」

ドアが開いて、キミが顔を覗かせた。

「あ...大丈夫！？ずぶ濡れ！」
「......」
「早く入って！お風呂、焚けてるから！」

キミが玄関の中へと、オレの背中を押す。
靴を脱ぐと、濡れた靴下がグチョリと足の裏に擦れて一気に気分が悪くなった。

「...傘、持って来てくれても良いのに...」
「え？」
「雨降ってんの、分かるでしょ？こんなに降ってんだから、雨音聴こえるよね？」
「あ...ごめん、ご飯作ってたから気付かなくって...」
「別に良いけど」

ハァ、と溜息を吐き出して玄関で靴下を脱いで部屋に入る。

濡れた髪が顔に纏わりつくのが鬱陶しくて、雑に前髪を掻き上げたらキミに水飛沫が飛んだ。

謝る気にもなれなくて黙って洗面所に入ると、後ろからキミも一緒について来た。

「何？風呂入るんだから出てってよ。裸見たいの？」
「カズくん、ごめんね。傘...」
「別に良いって言ってんじゃん」
「でも怒ってるから...」

ただでさえイライラしてたから、キミの萎縮した態度が妙にムカついて。

「怒ってねぇよ。でも怒ってるように見えるなら、そうなのかもね」
「......」
「オレ、仕事で疲れてんの。人が働かない時だって、働いてんの。家でノンビリしてるお前とは違うの」
「......カズくん...？」
「分かってくれてると思ったんだけどね」

キミが目を開き、何か言いそうに唇を動かしたから「何か言いたい事でもあんの？」って訊いたら

力無く、その首を振って洗面所から出て行った。

「何だよ...。あぁ、もう最悪！」

濡れたワイシャツのボタンを外しながら悪態ついてると、玄関が開いた音がした。

「...え？」

顔だけを洗面所から出して、玄関の方を見る。

「...A？」

ザワ....と胸がザワついて、リビングへ行くとキミの鞄が無くて、急いで玄関に行くと靴も無かった。

「...A...」

嘘だろ...と、玄関から出てマンションの廊下から下を覗き込むと走って行くキミの後姿が見えた。

大雨なのに、傘も差さずに。振り返りもせずに。