Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ29)

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309.想い想われ。ページ29

五月の始め、その日はよく晴れていて旅行日和。

だけど私は色んな緊張であんまり眠れなかったからなのか、あろうことか吹き出物がほっぺに出来てる事に早朝の洗面所で気付いた。

「...マジで...」

鏡に向かって唖然としてる私に、お母さんが「想いニキビじゃないのー？」なんて笑ってる。
待て待て、もうニキビって年齢でも無いし、想ってるって言うならもうとっくの昔から想い過ぎてる位だから！
何でよりにもよって今日！？

「ってゆーか、お母さん早起きだね」

ポコっとしてる吹き出物を掌で押さえながらお母さんに言うと、「だって娘が彼氏のご両親に会いに行くのよ！緊張するでしょうが！」なんて言ってる。

「やめて...また緊張が蘇って来た...」
「相葉先生によろしく伝えてね？あ、この『相葉先生』は『雅紀先生』じゃなくって」
「分かってる、分かってる」
「あ、これつまらない物ですけどーってお渡ししてね？」

お母さん、いつの間に用意してたのか有名パティスリーの紙袋を私に押し付けて来た。
中身はきっと、バームクーヘン。

メイクして着替えて、数日分の荷物を入れたキャリーを引いて家を出る。
春風が気持ち良い。

雅紀くんちに着くと、調度彼が出て来た所だった。
ダボっとしたパーカーとハーフパンツなんてカジュアルな服装なのに、キャリーがいつか見たシルバーのビジネスマンなアレでそのアンバランスさが格好良くて朝からクラクラ。

「あ！おはよ」
「おはよう」
「空港までタクで行こうと思って呼んでるんだけど、まだ来てないかー」

雅紀くんがキョロキョロしてるから、私もキョロキョロ。

「ねぇ、どっちから来ると思う？」
「え？タクシー？」
「うん。当てっこしようよ！ハズレた方は、そうだなー...モーニングコーヒーおごるってどう？」
「良いね！やる！」
「先にAちゃんが選んで良いよ」

どっちだろう...どこのタクシー会社を呼んだんだろう...考えても仕方無いから、勘で「あっち！」と左側を指差した。

「じゃあ、俺こっちね」

雅紀くんが右を選んだ3分後、右からタクシーがやって来た。

「うわ！負けた！」
「俺の勝ち！」

アハハ！って楽しそうに笑った雅紀くんが、出て来た運転手さんと一緒に私のキャリーも積んでくれた。

車内に並んで座ってると、突然「あ」と言った彼は私のほっぺを突いて

「これ、想われニキビ？俺が想ってるからかな？」

なんて。

こっちまで恥ずかしくなるような事を言って、照れ臭そうに微笑んだ。